TASさんが異世界に転生したようです
十巴
前編
重税、圧政、粛清。
現国王が時空の女神の封印と使役に成功しその力を意のままに行使できるようになって六十余年。今やこの国は全世界をその支配下に置いている。もっとも、僕はそう伝え聞いているだけで実際この目に見てきたわけではないのだけれど。
今日は中央の役人が税の取り立てに来ている。こいつらは毎年やってきては街の建物を手当たり次第に壊しては金になりそうなものを奪って帰っていく。こんな横暴が許されて言い訳がないが、王の使役する神の力がただでさえ屈強であろう男たちの力をさらに引き上げ超人的な力を与えている。リーダーの男は体長が三メートルほどあり、来るたびにに俺は神の力でこの屈強な肉体を手に入れたのだと豪語している。
これからも毎年このような圧政が続くのだろう。しかし村の人たちは諦めてはいない。この村にはこのような言い伝えがあるのだ。
「さかのぼること数百年、今は封じられし最果ての洞穴に異界のみなりをした男数人この地に現れる。彼らの神具その偉大なることすさまじく、一人の男、光る剣をもって邪神龍を誅す。彼ら、再度来る旨言い残し、洞穴の奥へと消える。而して我らその洞穴を祀り、今に至る」
その英雄たちは未だ再び現れたことがない。しかし、僕は子供のころからその伝説にずっと憧れていた。その戦士たちは必ずもう一度現れる。僕はそう信じている。
その時だった。耳をつんざく轟音が響いたかと思うと森の奥の方で空に向かって一筋の光がまっすぐに伸びていた。まさか!?伝説の英雄が現れたのか!?僕は我を忘れて森へと駆け出した。
光の根元にたどり着くとそこはやはり洞穴で、その前にあったはずの御堂がなくなっている。光があたりをこうこうと照らし、薄暗いはずの森の奥が神聖なまでの明るさを帯びていた。
「オォイオイオイそこのガキ。これは一体なんだ」
突然の声に驚いて振り返るとそこにはにっくき中央の役人どもがいた。
僕は奴らを睨みつける。
「黙ってんじゃネーよガキ。この俺様が質問してるってんだからよォ!?」
「ここは伝説の英雄が現れると言われている場所だ!彼らが来たからにはお前らの好き勝手にはもうできないぞ!なんてたって彼らは素晴らしい武器を」
そこまで言ったところで先頭の男が僕に向かって思いっきりタックルをかましてきた。あまりの速さに避けることもできず数メートル吹っ飛ばされ地面に仰向けに倒れこむ。
「ほォー、伝説の英雄様かぁ。で、そいつはどこにいるっていうんだ?何かあるかと思って来てみたもののここにゃチカチカまぶしいだけでなんにもありゃしねぇ。村のやつらが財宝でも隠してやがったのかと思ったが、とんだ肩透かしだ」
衝撃で息がうまくできない。苦しい。どうして僕には力がないんだ。
「まぁガキ。夢を見るのはやめるこったな。そんなひ弱な体じゃなんにもできねぇぞ。知識がいくらあったところで力には敵わねぇんだよ。なぁ!?」
そいつは巨大な腕で僕の頭をつかんだかと思うと軽々と上に持ち上げた。足が地面から離れて無様にぷらぷらともがくことしかできない。
「くそっ、誰か、たすけて……」
突如、黄色い火花が散った気がした。一瞬後に僕を掴むリーダーの男を除いた全員が吹き飛ばされ木にたたきつけられた。
そこには、僕の夢見ていたはずの英雄がいた。腰に剣を携え、神々しい金髪と、凛々しい顔。伝説の再臨。ヒーローの帰還。
だが、そこにいたのはどう見ても僕よりも小さな女の子だった。
「今のお前がやっ」
大男がそう言い終わる前に女の子は僕の腰回りほど太い男の首に蹴りを入れた。そう見えた。というのは僕には彼女が首に蹴りを入れた状態で初めて現れたかのように見えたほどあまりに超スピードで彼女が動いていたからである。
倒れた男に近づいた彼女は腰の剣を抜き彼の心臓付近に突き刺した。が、血は全く出る様子がない。と思うと男の体はするするとしぼんでいき、僕とあまり変わらないぐらいになった。
僕があっけにとられていると彼女は男の体から剣を抜き手慣れた手つきで鞘にそれを戻した。そして僕の方をじっと見つめている。
彼女は何を言うこともなくただこちらを見ている。まるで僕が何かを言い出すのを待っているかのように。僕はなぜだか抗いがたい意志のようなものに無理やり口を動かされた。なぜだかそう言うように決まっている気がした。
「君の名前は?」
「TAS――」
言い終わるが速いか彼女は村の方へと走り出した。僕についていけるぐらいの速さで。僕にはどういうわけか彼女が時間を競っているように思えたが、全く表情がないので何を考えているのかまるで読み取れなかった。
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