THE BOUQUET OF HEARTS
井桁沙凪
prologue:草稿
「あなたがたはどう思うか。ある人が羊を百匹持っていて、その一匹が迷い出たとすれば、九十九匹を山に残しておいて、迷い出た一匹を捜しに行かないだろうか。はっきり言っておくが、もし、それを見つけたら、迷わずにいた九十九匹より、その一匹のことを喜ぶだろう。そのように、これらの小さな者が一人でも滅びることは、あなたがたの天の父の御心ではない」 ──マタイ福音書18:11‐14
99匹の羊がいればもういいと暗黙の裡に諦められたとある1匹の黒い羊は、泣き疲れて眠った夜のあと、心臓を喰らう悪魔に出会った。
「俺は太陽と共に生まれたんだ。ほら、その証拠に、俺にはこの花がある」
たとえ悪魔の持つ花に魅せられて、心の隙間につけ入る弁舌にそそのかされて、葬送の花束に飾り立てられた旅路を共にすることになったとしても、天にまします主よ、あなたには、この哀れな黒い羊を罰することはできないはずだ。昼も夜も隔たない孤独に、無価値の惨い烙印に、痣だらけの心にしみる思い出に、身も世もなく泣き喚き、狼でもなんでもいいからとにかく誰かに会いたいと、今日もまたはぐれる羊たち……彼らの苦しみに勝る罰が、いったいどこにあるというのだろう。
どうか、不意な気まぐれを起こすことなく、さ迷い求める彼らをこれからも、見逃し続けてくれるように、祈る。 (2028年 〈タイトル不明〉草稿
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