部屋

バブみ道日丿宮組

お題:すごい体験 制限時間:15分

部屋

「父親が誰か気になるだって? それはたぶん知っちゃいけないことだよ」

 彼は優しく頭を撫でてくる。

「僕だって両親の顔は知らない。君のように片親だけでも知れてるのはめずらしい。まぁポジションが僕らの管理人というのはあまり好ましいものじゃないけど」

 包帯が巻かれた片腕を彼はさすった。

「僕らがここを出るには結果を出さなきゃいけない。知ってるだろ? 外は第6物質と呼ばれる化学細菌によって支配されてる。免疫力なんて持たない人類は一瞬にして消えた」

 モニターに映る世界を彼は指差す。

「こうやって生き残ったのは地下施設に保存されてた遺伝子情報。いわば試験管の僕らさ。地上にいた大人は死んで、裏に生きてた大人が残った。その1人が君の母親」

 笑う彼はどことなく寂しげだった。

「大丈夫だよ。今の僕は君や仲間たちが家族。両親なんかいなくても問題ないさ。ただ君が会いたいというのなら何か手を考えるのもいいかもしれないね。もしかしたらあの人が作ってくれるかもしれない」

 遺伝子情報から作ったらそれは新しい父親になるのではないかと問うと、

「確かに今の環境である程度生きられる人間として生み出さられるから別人といえばそうだね。外の世界に生きてる可能性はほぼないだろうし……」

 不満の声をあげると、彼は悩んだ。

「うーん、外の世界の対策はまだ完璧じゃない。僕たちの数が減ったり増えたりするのがその証拠さ。その中で君が残されてるのはあの人なりの親心からもしれない」

 もっともと彼は一呼吸。

「その状態が本当に愛なのかはわからない」

 そろそろ行くねと彼は立ち上がり、扉へと歩き始めた。

 私は機器を使用して、モニターに『またね』と書き込んだ。

 彼が去った部屋には規則正しい機械音だけが響いてあとは何も聞こえない。また彼がきてくれることを願って私はモニターを脳波で操作する。見れる情報は増えてきた。私ができることが増えたからだろうとは思うけれど、本当にしたいことはできない。

 彼のように両手両足を動かせたらいいのにーー私は繋がった機械と医療機器がなくなれば数分待たずに活動を停止する。

 私のために様々な機器が作られてる。

 いつか部屋から出られるように、いつか外の世界に行けるように。


 私はたったそれだけのことのために生きてる。

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部屋 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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