夏の恋路と彼岸花
羽毛布団
第1話 私と彼と
その造花の花弁には、値札が貼ってあった。
「いらっしゃいませ」
気前のいい男性の店員が、笑顔を浮かべながらこちらに視線を向けた。
「何をお探しですか?」
「あ……えっ、と……。あまり匂いのしない花を、いただきたいのですが」
「匂いのしないお花……ですね。分かりしました、少々お待ちください」
店員が奥に下がって、私は今さっき店頭で目に映った造花に目をやる。
アネモネだ。
本物と見まがうほど精巧に作られた青い花びら。みずみずしい茎に、アルミのバケツの中で綺麗に彩られた花束。
でも、決定的な何かが、欠けているような気がした。
「お待たせいたしました」
店員が奥から持ってきたのは、都会では見ない花だった。
その花は、燃えるように赤い色をしていた。葉はなく、花弁が茎の中心からうねるように重なっている。その間から、触手のようなおしべが伸びていた。
店員は一輪だけを綺麗に持ち、花弁をこちらに向けて。
「彼岸花です。他店にはあまりない、変わり種ですよ」
「……そう、ですね。ここじゃ、あまり見ないかも」
「ご存じで?」
「はい。地方出身なので、何度か見たことがあります」
「そうでしたか。おっしゃる通り、都会には咲かない花です。――田んぼのあぜ道にびっしりと咲く姿は死者を連想させ、球根には毒があることから、多くの花屋からは嫌煙されて、あまり置いていないんですよ。私は嫌いではないのですが」
確かに、彼岸花にいい印象はあまりない。
映画や漫画でたまに見かけるけど、その多くは、何かしらの毒を持っていたり、逆に毒を打ち消したりする能力を持っていたりだとか。
その淡い灯のような色の花弁も、死者と例えると、ピッタリな気がした。
「花言葉もいろいろありますが、その中に『独立』があります」
「へえ」
「お一人暮らしでしょう? ご自宅の花瓶にいかがですか」
「あ、いえ。自宅用ではなくて……」
私はこれから、とある高校生の家庭教師に行く。
家庭教師のバイトは上京した時から続けていたが、今回の生徒は一癖ありそうな子だ。
何か持っていくものはないかと思い、そうして花にたどり着いた。
でも、彼岸花はどうなのかなあ……。
「……あ、じゃあ」
このまま何も買わないのも気が引けたので、それならと。
「これをいただきます」
それはさっき目についた、造花のアネモネだった。
これなら世話もいらないし、相手が要らなければ捨てられる。
「……それと、せっかくなので、その彼岸花も一輪」
「ありがとうございます」
彼岸花は、セットということでオマケしてもらった。
和やかな営業スマイルで送り出す店員に会釈をして、店を出る。
バックに花を挿しこんで歩くと、文字通り気分も華やかに……なることは、まあなかった。だって彼岸花だもの。田舎にいる時から根付いた印象というのは、簡単には拭えない。
でも、その不気味にも見える形や色が、とても懐かしかった。
※
田舎ならばどこにでもあるような、普通のお家。
それは、当時付き合っていた彼氏の家だ。
広い畳の奥には、仏壇がある。
父方のおばあちゃんの遺影だそうだ。
そのすぐ隣にドアがあって、そこに彼の部屋の入り口がある。
ちなみに、そこから反対側のふすまを開けると、苔むした壁で囲まれた庭があって、縁側には木材で作られた足場がある。
彼は玄関からではなく、いつもそこから帰宅する。
だから私はいつも、そこで待っている。
「ただいまー……って」
「あ、おかえりー」
「なんでサラッと人の家に上がり込んでんだテメェは……!」
私はボリボリとせんべいをむさぼりながら、彼の方に向いた。
私の彼氏は――咲田くんは、どこか精悍な顔つきをしている男子だった。目つきが鋭くて、眉が寄っていなくても若干怒っているように見える。
でも、中身は全然そんなことなくて、困ったお年寄りやクラスメイトがいたら放っておけないような、とても優しい人だ。私の知る限り、色んなバイトを掛け持ちしていて、そのおかげか部活には無所属だが運動部に引けを取らない体つきで、体育祭などではいつもリーダー格。クラス内の女子からは優良物件との呼び声も高く、彼に寄り付くひっつき虫は多い。
……まあ、私が彼女っていう事実は変わらないんだけどね。
「鍵忘れたから。親が帰って来るまでいさせてくれぃ」
「ダメだ」
「えー?」
「バイトから帰ってきて疲れてんだよ。他の場所で暇つぶしゃあいいだろ」
「他の場所って?」
「……だ、駄菓子屋とか?」
「あー……。でも今の時間はチビッ子ばっかりで、行けたもんじゃないよ」
彼がここで言う駄菓子屋とは、私たちが生まれるよりずっと前からある古い建物で、私たち田舎っ子の憩いの場のことだ。
でも、この時間はちょうど小学生の帰宅ラッシュと重なる。
「ていうか、バイト帰りだっけ。お疲れ」
「お、おお。……って、だから! さっさと帰れって」
「いーじゃん別に。私のことは気にしなくていいからさ」
「そういうわけにもいかねえだろ」
「なんで?」
「なんでって……お前、そりゃ……」
彼は私をちらりと見ると、顔を赤くしてうつむいた。
「あ、今パンツ見えるからこっち見ないでね」
「自分で分かってんならどうにかしろよ……」
「この姿勢がいーの。漫画読みながらお菓子食べるのにちょうどいいから」
あしをぶらぷらと遊ばせながらベッドに寝ころび、お菓子を食べるのが私の至福だ。
まあスカートだから、後ろから見たら見えちゃうんだけど。
「見たかったら見てもいいよ」
「……はっ。見たかねえよ。お前のパンツなんて……」
「え、なに……漫画の話なんだけど。え、急になにキモいんですけど」
「あーうっっっっぜぇええええ……」
彼は頭を抱えてうなっていた。
「ねえ」
「……あ?」
「今日、親御さんは?」
「いねえ。出かけてる。それが?」
「べつに。――んっ……さすがに足疲れた……」
そろそろ、かな。
一旦漫画を閉じて、姿勢を正す。
「残念でした。もう見れないよ」
「……それはどっちのことだ」
「んー? どっちだろうねえ」
私はおもむろに立って、彼の顔を覗き込んだ。
「感想は?」
「……どこでそんなの買ったんだよ」
「ネットで。きみが喜ぶかなー……と思って」
言うと、彼は訝しげに目を細めた。
「ま、届くのに一週間もかかったけどね」
「……俺の好みじゃなかったらどうするんだ」
「普通に学校でも穿くけど」
「はっ……。痴女かよ」
「痴女じゃないですー。だって、きみ以外には見せないもん」
「それにさぁ~」
本棚の前まで歩を進める。
ぶ厚い本のあいだに挟まった薄い本を、私はおもむろに取り出す。
表紙を見ると、あからさまに布地の面積が少ない服を着た女の人があられもないポーズをとっていた。
「これに出てくる子って、だいたいこういうの穿いてたから」
「おまっ……いつの間に……!」
あまりに予想通りすぎる反応に、思わず吹き出しそうになった。
「うろたえすぎでしょ。ウケる」
ペラペラとめくって、ある一点で目が留まる。
「そうそう。こういう黒くて、食い込んでるようなやつが好きなんでしょ? あはは……もー……うわ、すごいなー……。ふふ、きみが普段どんな顔して読んでるのか、ちょっと気になるかも……」
勝手に読み進めていると、彼は「もう勝手にしろ……」とふて寝していた。
――そっぽ向いたって、顔赤いの、バレてるのに。かわいい。
「あっ、まだ袋閉じ開けてないね。開けていい?」
「いいわけねえだろ」
「けち。じゃあいいもーんだ。……それよりさ……」
「あん?」
「ちょっと疑問に思ったことなんだけど、きみって多分……っていうか絶対、自分の本当に見られたくない部分って、徹底的に隠すタイプの人間だよね……? そんなきみがどうして、こんなあからさまな場所に置いたのかな」
尋ねてみても、彼は気恥ずかしさからか答えてはくれなかった。
「ま、いいけどね」
流れを切るように言って、彼と無理やり視線を合わせる。
具体的に言えば、勝手に彼の頭を私のひざに乗っけたのだ。
俗にいう、膝枕というやつだ。
「……それに、それって裏を返せば、きみにとってこの本は見つかってもいい……。いや、むしろ見つかって欲しいって思って、わざとここに挟んだとも考えられるよねえ?」
「な……、何でそうなるんだよ」
「たとえば――私とするキッカケが欲しくて、とか?」
何とも言えない微妙な表情をしながら、彼は目を伏せる。
私はニヤつくのを抑えながら、持ってきたエコバックを引き寄せて見せた。
「ん」
「なんだよ」
「ゴムとかローションとか、必要そうなものだいたい揃えてきたよ」
「……頼んでないんだが?」
「そりゃね。私が買ったんだもん」
せっかく一週間もかかる買い物をしたのだ。これくらい追加で買わないと、送料分がもったいない。
「ね、せっかくだからしてみようよ」
「無理だ」
「……は? なんでだし」
「……責任が取れないから」
真剣な表情をして言う彼に、今度こそ私は盛大に吹き出した。
「きみってそんなにマジメな人だっけ」
「はあ? 大事なことだろうが……」
「まあ、マジメなのもいいんだけどさぁ。でも、ほかの皆はやることやってるよ。だって、それくらいしかすることないじゃん」
このまま何もしないで田舎で腐っていくよりは、ずっとマシだ。それなら、自分から腐りに行く方がずっといい。
賞味期限が儚いものほど崩れやすく、甘美なことを知っているから。
「キスくらい、したことあるよね?」
「……ねえよ」
「知ってた♪」
「はは。ぶん殴るぞ?」
「そう言わないでよ~。私がきみの初めてだってこと、確認したかっただけだから」
私はふわり。と、彼の頭に覆いかぶさるように胸を乗せた。急なことでビックリしたのか、彼の吐息が胸の先端にかかって、思わず声がもれる。
「ばーか……。早いよ、まだ脱いでないのに」
「わ、わるい……」
すぐに態勢を直そうとする彼の頭を、私は胸を押し付けてむりやり押さえつけた。
「どこ行くの?」
「どこって……」
「……好きにしていいんだよ?」
ごくりと、彼が生唾を飲む音が聞こえた。
体には自信があった。
自分で言うのもなんだが、胸は他のクラスの子たちよりずっと大きいし、身長も平均的でバランスもいい。田舎だから比べる相手が少ないことはご愛嬌だが、彼が満足してくれるならそれでよかった。
だって、ほら。
こんなにも胸に当たる吐息が…――熱い……。
「……あっ……ちょっと、ブラ外すから待って……。ん、そう。えらいね」
髪を撫でると、整髪剤でパリパリしていた。
隙間から見える視線は、私を求めるように輝いていて。体はいつもの何倍も熱いのに、彼の視線がぶつかるだけで鳥肌が立つ。
ああ――これが欲しかった。
求められている快感が。
「ここじゃ、ちょっと暑いから……畳部屋、行こ?」
セミの鳴く音が、遠くで聞こえていた。
「――はっ……んっ……」
唇を重ねているあいだは、思っていたより思考がクリアだった。
手のひらをつないで、後はなりゆきで、二人で床下に溶けていくように重なった。
お互いに経験なんて少ないので、一つのことをする度に、確認を取るように見つめ合った。でも、女子の私のほうがちょっとだけ老獪だ。
彼の表情や息遣いで、何を求めているかが分かる。
その度に腰を動かし、胸を押し付け、彼の表情を確認しながら舌を重ねた。ちょっと汗臭い匂いも、鋭敏になっていく下腹部も――そのすべてが、手に取るように分かる。
安っぽい全能感と、求められているという興奮が、私の心を満たしていく。
「……気持ちいい?」
雑に脱ぎ捨てられた下着類を手でどかしながら、私は問うた。
「……ん。……お前はどうなんだよ」
「私? んー……まだまだかなあ」
バックを手元に引き寄せて、中からローションの筒を取り出す。
蓋を開けて、彼の手にたっぷりとそれを垂らす。
「ほら……これ、塗って?」
胸を突き出すと、彼は逡巡したあと吐息を荒くして、私の体にそれを塗りはじめた。
「っ……んっ……」
ローションは彼の大きな手で暖かく体になじんでいく。手つきは撫でるように優しいのに、研磨されるように、クリアだった思考がはじけていく。
「そ、そう……。上手……だね」
彼が慣れていくにつれて、徐々に上から、下へ。
胸から下腹部へと手が伸びていく。
「んっ……。そこ……いぃ……っ」
くちゅくちゅといやらしい音をたてて、敏感なところが指でかき混ぜられていく。こみ上げてくる声を抑えようと口を塞ぐが、細やかな息が自然と漏れていく。そ の度に彼は息を荒げ、指の速度が速くなっていく。
「は……あっ、あっ、ん……ああ、ぁっ」
こみ上げてくる快楽が、私の脳を犯していった。
「はあ……、はあ……。ん? どう……したの」
彼はまじまじと、光沢のある目で私の濡れたそこを見つめていた。
「……舐めたいの?」
控えめに問うと、彼は小さく、恥ずかしそうにこくりとうなずいた。その仕草にぞくりと、泡のような鳥肌が立つ。
「……いい、よ……」
頬が吊り上がる。
吐きそうなくらい、気持ちがよかった。
彼が顔を近づけて舐めるたびに、私の秘処が過剰に反応して湿っていく。
反射的に、彼の髪の部分を掴んだ。人の頭であることを思い出して力を緩めたが、彼は夢中で、舌での愛撫を止めようとしない。
「や、めて……。もういい……から……ぁっ……!」
熱いものがこみ上がってくる気配がして、彼の頭を強く抑えた。
「ぅぁ……ああぁっ……!」
体の奥から炭酸が弾けるみたいに、この数分間で彼と築きあげてきたものがぜんぶ、一瞬で泡になって消える感覚がした。
その瞬間に感じた快楽が。今までのすべてがどうでもよくなるくらいの幸福感が。そして、それらが一瞬の内に起こる儚さが。
果てて尚、花火のように、頭の中で残響していた。
「……どうだった?」
余韻の中に混じる、彼の声。
「……うん。気持ちよかったよ、とっても」
言うと彼は、くすぐったそうに破顔した。
つかの間の冷静。そこで初めて、私は気づいた。
「――その傷……どうしたの?」
彼の体に、傷というか、真っ青な痣になっている部分があった。
胸の甲より少し右側――腕の付け根に近い部分が、青くはれ上がっている。
「……あ、ああ。これは、その……」
彼はあからさまに言いよどんだが、やがて。
「そっ……それより、お前ばっかりズルいぞ。一人だけいい思いしやがって――…!」
言うと、彼は乱暴に唇を奪いに来た。今までの受け身な姿勢とは打って変わって、まるで、何かを誤魔化すように――派手に、そして、稚拙なキスが私の口内に打ち込まれた。
「んっ……」
何かを隠そうとしていることは分かった。
でも、そんなのどうでもよくなるくらいに――彼の拙いキスが、想像以上に気持ちよくて、自分を求められていることが嬉しくて。「うん、そう……来て……?」珠のような汗が浮かび、彼がそれを舐めとる。離した唇からは唾液の糸が引いていた。息が荒くなる。視界が白くなる。自分の体が成熟していく感覚がする――ああ、生きている。
私は快楽に身をゆだねて、彼を抱いた。
2
曇天の空のもと、私は生徒が住んでいるマンションまで足を運んでいた。
「でっかー……」
都会の一等地にあるのに関わらず、周りと隔絶されたような静かな雰囲気。
海外の庭を連想させる、白い外装と草木で統一された中庭。
子どもが遊ぶための遊具や噴水まで完備され、これで最寄りが徒歩十分だと言うのだから、驚きというか、もはやため息が出た。
「よほどの坊ちゃんなんだろうなぁ……」
ちゃんと授業……受けてくれるかな。
「……あー、やめやめ。仕事前だぞ、私っ」
頬を叩いて身を引き締め、エントランスに足を踏み出す。高級感のあふれる大理石の床や、シャンデリアの証明が田舎者には眩しかった。
おそるおそる部屋番号を押してインターホンを鳴らすと、少年の声が聞こえた。
「――誰?」
機械ごしなのに、透き通った声をしているな――と思った。
「あっ、えっと。家庭教師として参りました、真里谷です」
「マリヤ? ……ああ、そんな名前だったっけ。まあいいや、入って」
投げやりに音声が切れると、ガラス張りの扉がウィーンと左右に開く。
毎回思うけど、音声認識のドアってすごく近未来みたいね……。
そんなどうでもいいことを考えながらエレベーターに乗った。
目的の階は最上階――十六階だ。
――ピンポーン。
目的の階についたことを知らせる音が予想より大きくて、肩が跳ねる。
エレベーターを降りると、正面に一つだけ表札の貼ってある扉があった。
『子安(こやす)』
それは、エントランスの大理石とは程遠いシンプルな表札だった。銀色のプレートにそのまま文字を刻んだような、普通の一軒家の表札と比べてもなんら違和感のない、そんな感じの。そしてどうやら、この階には『子安』以外の部屋が存在しないらしい。
「VIP待遇ってわけですか……」
この豪勢な住宅の中でも、トップのお金持ち。
……いや、臆するな。今はそんなことを考えてもしかたがない。
私は、家庭教師だ。
生徒がどんな人であれ、教えてあげられることを精一杯教えるだけである。私は広い廊下のなかで、ひときわ存在感を放つその扉の前に立った。
来たことを知らせようと、インターホンに指を伸ばした、そのとき。
ピーッと、何かが解放されたような音がして――扉が開いた。
「……わぁお」
もう、あれだ。金持ちなら何でもアリなんだろう。そう思うことにしよう。私の実家なんて鍵穴錆びついてマジで家に入れなかった事とかあるのになあ……。
「お……お邪魔しまーす……」
おそるおそる部屋の中に入る。
――中は、思っていたより薄暗かった。部屋中が遮光性の高いカーテンで仕切られていて、もともと曇りだったことも手伝ってか、部屋の中は暗く、薄ら寒さを感じるほどだった。
その中でも、部屋の奥でひときわ存在感を放つ部屋があった。
そこからは青白い光が漏れていて、カタカタとPCをタイプする音が響き渡っている。
「――消毒」
音がピタリと止むと、代わりに少年の声がその部屋から聞こえた。
「消毒だよ。した?」
「え? してません……けど」
「……して、今からでも。入口に備えてあったでしょ?」
振り向くと、確かに入口のところに常備されていた。
デパートにあるような、センサーで消毒液が出てくるやつだ。
「……はい。しました、けど」
「じゃあ入っていいよ」
タイピングの音が止んで、中から少年の声が私を呼んだ。
潔癖症なのかな……?
「……お邪魔します」
一言断ってから、私は扉を開けた。
高校生の少年の部屋にしては、物が少ない。
本棚もクローゼットもなく、中央に大きなゲーミングPCが設置されていることを除いて、生活感はあまりなかった。
窓はもちろんあるが、そこにもカーテンが敷かれ一切の遮光がカットされている。
デスクトップが放つ青白い光だけが、彼の輪郭を鮮明に映していた。
「子安くん……で、いいんだよね?」
「うん」
彼は振り向きざまにヘッドホンを取ると、その視線を私に向けた。
「子安明人。明るい人って書いて、アキトって読みます。よろしく」
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