Recollection-24 「3人」
昨日は色々な事が重なり、余り眠れなかったイェット。
日の入りだが、日課の走り込みに行くには少々精神・肉体共に疲れていた。
なかなか寝床から出られず、色々な考えが頭を過ぎる。
2つの首飾り。
エトナの呪縛。
エトナの秘宝。
初めての戦闘。
父さんの技。
海の青さ。
(あの時は無我夢中で、父さんの声で動けたけど、、。今思い出すと少し怖いな、、。でも、僕の技でも、、勝てるんだ。)
(海、綺麗だったな。エトナの呪縛に囚われる限り、僕は遠くへ行く事はできないのか、、。)
(そう言えばエトナの秘宝の事、聞きそびれたな、、。父さんは何て言おうとしたんだろう。)
(て言うか、父さん、何で技が使えるんだ?)
(、、首飾り、どうやって渡そうかな、、。いきなり城へ出向いて「やあ!」とか言って入れるもんかなぁ?)
少年は少年らしく、純粋に疑問が湧くものだ。
そんな、彼にとって無駄な様で大切な事を考えてると、少し眠っていた様だ。
コンコンッ!
ん、、んぁ、、?
「イェット、お友達2人きてるよー。」
母さんの声がした。
(友達2人?、、イグナとマリーでも遊びに来たかな?)
「んー。今行くぅー。」
まだ寝惚け眼で自室のドアを開けると、2人の少年が立っていた。
「ようっす!なんだ寝てたのかぁ⁉︎遊びに行こうぜぇ!」
朝から良く通る大きな声で僕の目を覚ましてくれたイグナ。
「おはよウ。凄い寝癖だナ。『キバタン』て鳥みたいだゾ。」
(き、きばたん?何だソレ、、、。あ、あれ?良く知ってる様で、余り知らない彼は、、。)
「?『スクレータークロキツネザル』の様な目をしてどうしタ?」
身長はイグナと同じ位で、ふわりとした金髪で襟足は長く前髪が目に掛かり、キリッとした二重で薄い唇。鼻筋の通った色白の、何とも中性的な顔。そして、み空色の瞳。
「シン!シンじゃないか!、、てか、すく、すくら?、、何て?」
「『スクレータークロキツネザル』だヨ。」
「何だよそれ!朝一にそれみたいって言われたの僕がこの世で1番最初だぞ⁉︎」
「よかったじゃねぇかイェット!世界初だぜぇ⁉︎」
「例えが悪かったかナ?『ショウガラゴ』の方がいいかナ?」
「何だよその例え⁉︎わかんないよ!ははは!」
そういうとイェットは笑った。
「シン先生、実は俺もあまり分かってねぇっす、、。」
「先生ってのやめロ。分かんないとか言うナ、、。恥ずかしいだロ?」
そう言うと、僕ら3人は笑った。
自然に笑い合えてたんだ。
「明後日には祭だろ?俺ん所はじいちゃんと妹が干物の準備しててよ、『お兄ちゃんは邪魔だからどっか行って!』とか言われてよぅ。俺が頑張って獲った魚なのにさ⁉︎」
親友の部屋でイグナはワザと唇を突き出し拗ねた表情を作る。
「イオちゃん元気そうだね。確か3個下だから、11歳になるよね?」
「へェ、妹がいたのカ。知らなかったナ。イグナが兄では気の毒ではあるガ、、。」
テメェ!とイグナは笑いながらシンを殴るフリをする。シンも笑いながらごめンやめロ!とか言ってる。
(いつの間にこんなに仲良くなったんだ?ついこの間殴り合ってたような、、。)
イェットは2人を見て不思議に思ったが、ま、いいかと微笑んだ。
「そうダ、イェット。俺は話があってきたんダ。」
「? 何?」
シンは頭を掻きながら言う。
「そノ、この間はいきなり突っ掛かって悪かっタ。謝るヨ。」
「! いや、僕は気にしてないし、シンの言った通り、はしゃぎ過ぎていたのは僕達だ。逆にごめん。『かぎづき』だったっけ?あれは凄かった。」
「、、イグナの突きはヘナチョコだからネ。」
シンは心のつかえが取れたのか、満面の笑みを浮かべた。
「お前の鉤突きもヘナチョコのパーだぜぇ⁉︎」
イグナがそう言うと、シンは右の鉤突きを軽くイグナの脇腹に入れた。イグナが先生やめて下さい!とか言ってる。
「ところでよぉイェット、最近マリーに会ったか? 今年の祭でも歌ぁ歌うんかな?」
「さぁどうだろう?ここ数日は会ってないなぁ。歌は歌うんじゃないかな?去年も一昨年も、その前も歌ってたからね。」
「、、あのコ、歌上手いよネ、、。可愛いシ、、。」
「「えっ⁉︎」」
イェットとイグナが同時にシンを見る。
「エッ⁉︎ 俺何か変な事言っタ、、?」
シンはキョトンとしている。
「イヤまぁ、その、、アレだ!マリーは確かに学び舎でも人気あるからなぁ!」
(シンの奴、今さらりと凄え事言ったぞ⁉︎)
イグナがイェットを一瞥する。
コンコンッ
「入るわよー。」
母さんだ。
(イェットの母ちゃんいい時に来た!渡りに船だぜぇ!)
ドアを開けながら、その手にはペイストリと羊の乳をお膳に持っていた。
「イグナくん、それに、シンくんだったわね、ごめんねぇー、羊のお乳とペイストリしかなくて、、。」
母さんはそう言うとテーブルにお膳ごとそれを置いた。
「いつもあざぁっす!いただきます!」
「ありがとうございまス、お姉さン。」
「「「、、、は?」」」
シン以外の3人が底・中・高音で奏でる。
「エッ? イェットのお姉さんジャ、、ないノ?」
「きゃあアァァ! シンくん最高ぉおッ! 格好いいし、言う事も素敵ねえッ!ゆっくりしてってねぇー!」
イェットの母さんが嬉しさのあまり小躍りしながら部屋を出ていった。
(コッ コイツ年増殺しか⁉︎)
イグナは半笑いで頬に冷たい汗を流した。
確かにシンは男前だ。学び舎でも歳上から人気があると後から聞いたが分かる気がする。
「シンの生まれた国って、シニスタラム国だよね?皆金髪なの?」
イェットは素朴な疑問を聞いてみた。前から教室にいた彼は目立った出立ではあったが、いつも外を見ていて人を寄せ付けない雰囲気があった。だが今日は遊びに来てくれている。色々話してみたかった。
「ううン、皆が皆って訳じゃないヨ。半数が金髪に青い瞳デ、他は黒髪で茶色の瞳って感じかナ。イェットみたいな綺麗な髪の人は1人もいなかったヨ。」
シンが続ける。
「そう言えバ、これはシニスタラム国に住んでた頃に噂になってた話だけド、『エトナの秘宝を手にする者は、世界を手にする。』って言われてタ。イェットは『エトナの民』なんだロ?何か関係してるノ?」
シンも素朴な疑問をぶつけてきた。
「うーん、確かにエトナの秘宝の噂は聞いた事あるんだけど、それと僕等の関係は分からないんだ。」
「それもそうカ、『秘宝』って言うだけあっテ、やはり秘密があるんだろうネ。」
「て、事はよぅ?」
イグナが口を開いた。
「今シンが言った『エトナの秘宝を手にする者は、世界を手にする。』って事は、コーポリス国の王様が秘宝を持ってるハズだから、王様が世界を手にしてるって事だよなぁ?」
「「!!、、確かに!」」
イェットとシンは同じ言葉を発した。理屈ではそう言う事になる。
「その割にゃあ、世界を動かしてるって感じはないぜ?」
イグナはぶっきらぼうでガサツに見えるが、よく気がつく鋭さがある。
コーポリス国のコルメウム城の城主、オズワルド・ワイトキングが、世界の頂点にして世界の王、、。それにしては、余りに一般的な国ではないか?
国民に対して年貢等の強要は全くなく、町民達の行動の制限も少ない。
少し違うのは、国境線の関所の多さと、争い事のない時でも城内の見張り・巡回・護衛が途切れた事がない位か。
『エトナの秘宝を手にする者は、世界を手にする。』
この意味に近づくには、、。
イェットが独り言の様に呟く。
「僕達『エトナの民』は、何故存在するんだろう?一体何を護っているんだ?強制ではないにしろ、殆どが護衛団に所属している。」
先生隊長然り、四神然り、フォエナさん然り、、それ以外のエトナの民も、命令もされていないのに何かを『護っている。』
それはまるで、
学ぶ事なく飛ぶ鳥の様に。
学ぶ事なく巣を張る蜘蛛の様に。
学ぶ事なく泳ぐ魚の様に。
(そして、『エトナの呪縛』も、その『護るべきもの』が理由なのか?)
「城に行ってみないカ?」
シンがまるでイェットとイグナの心を読んだ様な提案をする。
「よしっ!決まりだなぁ!」
「うん、行こう。」
「その前にイェット、その『キバタン』みたいな寝癖、直しなヨ。」
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