Recollection-6 「1人目の来訪者」

雨が地を叩き野草を起こそうとする八月の休日の朝。


イェットは一ヶ月前のあの日の出来事以降、漠然と強くなりたいと思い、あれから毎朝走る様にしていた。男とは若い頃は皆そうなのだ。


しかし雨の為、イェットは1人自室にいた。


土のレンガで組み立てられた家に、木製のドア。外の光を入れる為、開口部は多く作ってある。夜の灯に油や蝋燭を使う為に酸素が必要だし、二酸化炭素中毒にならない様にだ。


屋根は木の棒に藁を巻きつけてから土を外側だけに塗り固めてある。これでも雨は凌げる。


木製の窓は木の棒で留めて開けっぱなしにしている。


そんな開口部の下の寝床から出ようとするも、この雨では、、。


(これじゃ仕方ない、、か。)


目を覚ました時の格好に戻り、不言いわぬ色の瞳を閉じてあの日の帰り際の事を思い出していた。





…1ヶ月前


「ごめんね、怖い事に巻き込んじゃって、、。」


そう言うシーヤの表情は少し悲しそうな笑顔だった。



「いやいやいや!何にも気にしてないぜ!なぁ⁉︎イェット⁉︎」


イグナは笑顔を取り繕っていた。強がって見せた。



「そ、そうだよ!シーヤが悪いんじゃないよ!、、うん、、。」


自分へのやるせ無さが言葉選びを失敗させたかもしれない、、。


イグナがこらぁっといった感じでイェットを一瞥する。



「でも今日は楽しかったぁ〜!本当にありがとう!また遊ぼうね!」


シーヤが空元気で2人にそう告げる。


2人は可能な限りの作り笑いでうんうんと頷いてみせた。



「でも、もう会えないかもねぇ、、なーんて!」


「そ、そんなこたぁないぜ王、、シーヤ! うん!今度遊びに来いよ!」


馬鹿っとイェットがイグナを一瞥した。



「僕達、待ってるからさ!それに、僕達もシーヤに会いに行くからさ!」


イェットのこの一言は良かった。イグナも今のはいいぜぇっとイェットを一瞥した。



「、、約束だよ!絶対!」


少しだけ笑顔になりシーヤは2人に言った。


2人は可能な限り上下に首を振り頷く。


「約束な!」


「約束だね!」


するとシーヤは口角をこれ以上無理と言うほど上げて


「またね!」


と言い振り返った。


少年達よりも少女な彼女の気丈なその振る舞いは、彼等よりも大人びていた。


この間、コルメウムの四神と言われる4人は3人の話を聞きながらうんうん、と頷いていた。



「ゼン!ゴウ!サイ!ユウ!帰ります!準備を!」


懐かしい号令がかかると


「「「「はっ!」」」」


と、懐かしい四重奏を響かせた。


少女を先頭に歩き始めた矢先、四神の1人がこちらにやって来た。


ユウだ。


やべ、、俺たち何か変なことしたかな、、?


2人の間に緊張が走る。



「今日ありがとう。あの日同様、君達といるシーヤ様は非常に楽しんでおられた。心から感謝する。」


意外な言葉に少年達は唖然とした。


ユウが続ける。


「もし何か困った事があれば、いつでも訪ねてくるがよい。」


ユウは右手をイグナの左肩に、左手をイェットの右肩にポンと添えると、少し力を入れて2人を優しく揺さぶった。


コココッ チッ チッ


ユウは自分の兜を中指の第二関節で3回、人差し指の先で2回叩いた。


『またな。』


笑顔で言っていると分かる声でそう少年達に意味を教え、ユウは立ち去った。


2人は見様見真似で自分の頭を真似して叩いてみた。





後で気付いたけど、ユウさんはあの時「今日ありがとう」って、、、言ってたよな、、。


あれから1ヶ月、、会いに行くったって、そうは言っては見たものの、コルメウム城へは中々、、、。



イェットはうつらうつらと二度寝の魔法にかかりかけていた。


コンコンッ


ノックだ。


「何?何の様?」


イェットは入眠の邪魔をされ少しだけ腹立たしくて物言いが酷くなった。


「お客さんよー。」


母さんの声だ。


誰だろう。イグナかワッキ、ヤクーでも遊びに来たかな?と思い立ち上がりドアを開けた。


「ふわぁ〜、、今日は遊ぶ気ぶ、、、ん、、あ」


どゴォッ!


欠伸をしながらドアを開けたイェットに中々の角度でボディブローが炸裂する。


「ナンッ⁉︎」


イェットは何で?と言おうとしたが時既に遅し、である。


ズウゥン、、!


その場に崩れ落ちた。


崩れ落ちながら見たのは、長く輝きを放つ黒髪に空五倍子うつぶし色の瞳をした、そばかすがチャームポイントの女の子が、両手で顔を覆いながらも指の間からこちらを見ていた光景だった。



「服くらい着て下さい!」


薄れゆく、、意識の、、中、、、


僕は、、、必死に謝、、、ろうとして、、


ヒュー


ヒュー


呼吸を、、する、、の、が、、やっ、、と、、た、た、助けて、下さい、、


メッシ!


「そんな目で見ないで下さい!破廉恥はれんちです‼︎」


一度膝を上げてからの踏みつけ気味の前蹴りが僕の顔面の中心を見事に撃ち抜き、気持ち良く僕を夢の世界へ旅立たせた。矢の如き速さで。


「もう!イェット君たら、、。」


彼女の名前はマリーアンナ・トト。


僕の幼馴染で14歳。




僕より少し背の高い、お淑やかな人間凶器だ。

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