第890堀:不自然な森

不自然な森



Side:リエル



「到着! よっと! うーん、車は移動には便利なんだけど、身体が固まるよね」


僕はそう言いながら車から降りて、固くなった体をほぐす。

そう、僕たちは今、竜山の加護を受けているという、町の前に到着している。


「それには同意するけど、馬車よりもはるかに早いんだから文句言わない」

「……それはいいとして、町まで車で乗り付けちゃったけど、大丈夫なの?」


あっ、それは思った。

町までそのまま車で来ちゃったけど、車で乗り付けるとえてして物珍しさとかでトラブルがあるんだよねー。

……獣神の国とか。そういえばあれから、どうなったのかな?

まぁいいか。ユキさんが何も言ってないんだし。

っと、今はこっちのことに集中しないと。

で、車で来てよかったのかって話だけど……。


「ん? 別に構わないぞ。最近じゃウィードのお陰で、まだ軍用までだが、ロガリの大国では車が使われているからな。町の人もたいして珍しがらなくなった」

「ええ。特に竜山は厳重な監視が必要なところで緊急対応も考えられますから、馬よりも早く丈夫で、疲れ知らずの乗り物が最適だったというわけですわ」


なるほど。

確かに、ドラゴンがいるところの情報はちゃんと把握したいよね。

あれ、でも……。


「それならゲートの方がいいんじゃない?」

「それは提案いたしましたが、町の住人たちから、流石にドラゴンを刺激しかねないと言われまして、まぁ確かにその通りですので、町へのゲートの設置は見送りになりましたの」


あー、納得。

確かに、ゲートを置いた時にドラゴンがどういう反応を示すかまではわからないもんね。


「でも、それじゃユキさんから頼まれてるゲートが設置が出来ないんですけど?」

「ああ、それは問題ないぞ。ウィードと私たちが動き出したんだ。ドラゴンたちにはどのみち選択してもらうことになる。その時暴れるなら、大義名分が出来て大手を振って狩れるからな」

「シャール……逃げる可能性はないの?」

「ないとは言い切れませんが、今まで余所者は排除してきたという話から、まずないと言えますわね」

「ま、その程度で逃げ出すならどうにでもできるでしょう。ゲートを展開してすぐ、後方支援のスティーブたちも来ますし、いざというときは飛竜隊も出ますから。航続距離、速度を考えるととても逃げきれることはないでしょう」


そういえば、ユキさんが後方支援ってことでスティーブたちを派遣してくれることになっていたんだっけ。

なら、ドラゴンたちが逃げ出しても、逃げ切れるってことはないかな。


「でもさ、ローエルたちがいいと言っても、町の人はドラゴンと戦ってもいいって言わないよね? そこで邪魔が入るんじゃないの?」

「ええ、ですからこの町にはただの情報収集で来ただけで、拠点となるゲートの方は別の場所に設置してもらおうと思っていますわ」

「……納得。で、情報収集はだれが?」

「それは、私が仲介役としてついて行って、ウィード側からはモーブたちがいいだろうな。名も通っているし。ということで、トーリたちはシャールと一緒にゲートの設置をしてほしい」

「え? でも、ここって別に誰の土地でもないんじゃ」

「そう、だれも所有権は主張していないからな。別に何かを作ってはいけないという法も存在しない。昔からこの地域にある町や村の連中はまぁ文句を言うが、直接的な行動に出ることはないしな。どうせ勝手に滅んでいくと信じられているからな」

「ドラゴンとの交渉がうまくいったら、これを機に、竜山の管理はウィードがしてくれるのでしたら非常に助かるのですが」


うわぁ。なんかシャールがものすごいことを言って来たよ。

実際そんなことできるわけないよ。

今でさえ大変なのに。


「……それはセラリアに相談して。私たちじゃ回答できない」

「まあ、それもそうか。後でセラリアに話してみるか」


絶対いらないっていうと思うけど。

とまあ、そんなことで町に行くチームとゲートを設置するチームに分かれて行動することになったんだけど……。



「町から適度に離れていて、敵から見つからなくて、敵への対応もできる位置にゲートを設置っていわれてもねぇ。どこに置けばいいのかさっぱりわからないよね」

「……意外と難しい」


ザーギスのリクエストってのが結構難題で、兎に角ぶらぶらと辺りにいい場所がないかと捜索することになってしまった。


「街道沿いに作るのはあれだし……」

「ですわね。そんなところにダンジョンを作れば、どうしても騒ぎになりますわね。正式に許可があるならともかく今回は秘密裏に作りますから」


意外とダンジョンを作るのって気を遣うんだなー。

下手をすると冒険者に発見、侵入されて攻略される心配もあるし、ドラゴンへの対策もとらないといけないから。

考えなきゃならないことが沢山あるなー。

そんな感じでいろいろ考えていたら、僕は不意にいいことを閃いて。


「そうだ。こんな時こそユキさんに相談だよ。上空からの映像はドローンで撮ったし、送ってどこがいいか聞いてみよっと」

「……それがいい。私たちだけで悩んでもきりがない。ここは専門家に聞くべき」

「そうですわね。ユキ様ならこれまで数多のダンジョンを作っていますし、きっといい案を出してくれますわ」


ということでシャールの許可も下りたので、さっそくユキさんに連絡を取ってみる。

あ、説明は苦手だから、トーリに任せたけどね。


『ん? トーリたち、どうした? 定時連絡はさっきもらったよな。 町とかで何かあったか?』

「いえ、町の方はモーブさんたちとローエルさんが情報収集に行っていて、今のところ特に問題はないです。問題となっているのはダンジョンを作る場所です」

『場所? ああ、こっそり作るとか言ってたな。で、その場所に悩んでいると』

「はい。これから、上空から撮った写真を送りますんで、なにか意見をもらえたらなーって」

『わかった。データを送ってくれ』


ということで、さっそくユキさんは僕たちの相談に乗ってくれて……。


『スティーブたちが展開することも考えると出口はそれなりに広くないとつらいか……。最悪飛竜の出動もあるからな。となると、それなりに辺りが開けていて、なおかつ人に見つからないっていう条件だと……』

「改めて聞きますと、とんでもない条件ですわね」

『ま、そうだな。初めてでこの条件に合った場所を探すとなるとトーリたちにはきついのは当然だな。あとでザーギスに注意しておく。というか、いつも俺が用意した後から来るのがザーギスのスタンスだったからな。あいつもこういうことが必要とまでは頭が回らなかったんだろう』


ああ、なるほど。

ザーギスはいつも、ユキさんが全部準備を整えた後に来てたね。

ザーギスもザーギスで、けっこうユキさんに助けられている面が多いんだなって思う。

なんか、最近は動かしやすい研究員ってことであちこち連れまわされているから、ちょっと可哀そうとか思っていたけど、実はそこまででもないって感じかな。お互い様って気がする。


「で、ユキさん。いい場所あった? 僕たちじゃよくわからなくてさ」

「……私も上空からのデータを見たけど、そんな都合のいい場所なんてなさそう」


僕とカヤがそんな風に聞いたんだけど、ユキさんは特に悩むこともなく……。


『ま、いいとこが見つからない時の鉄則って言うのがあってな』

「鉄則ですか?」

「それはいったいどういう方法なの?」

『別に難しいことじゃない。まずは町の連中に見つからない、森の中の方を選んでダンジョンを作ってしまい、ダンジョンの地形変更を使って出入り口の周囲を更地にすればいいだけだ』

「「「あ」」」


あっ、そうか、うん簡単だったよ。

ダンジョンのスキルで土地を改造すればいいんだ。


『とはいえ、その後ばれないように偽装とかもする必要があるけど、そこはスティーブたちに任せていいだろう』

「そうなると、森の奥のほうが秘匿性は上がりますわね」

『それはそうだが、シャール。その森が竜山からどれだけ離れているか、俺からはわからない。勘づかれるような距離か?』

「ドラゴンの感知能力がどの程度かまではわかりませんが、ここは竜山からはまだ馬車で3日は離れていますわ」

『早馬だと半日ってところってことは20キロほどか。まあ、それぐらい離れてるなら心配ないだろう。じゃあ、場所はここがおすすめだな』


そう言ってユキさんが指さす位置は本当に森のど真ん中ってところ。


「おっけー。じゃ、ここに移動するね」

『おう。その辺りの魔物は強力っていう話も聞くからな、気を付けて』



ということで、僕たちは森の中を進むことになったんだけど……。


「……進み辛いですわね。まぁ、本当に誰も通っていないということがわかるので、その点は安心なのですが」

「だね。でも、私たちも草を刈れないのが面倒だよね」

「僕たちが通ったことがばれちゃうからねー」


僕たちは本当に獣も人も通っていない、鬱蒼と草が生い茂った森の中をただひたすら歩いている。


「しかし、魔物の姿が全く見当たりませんわね」

「強力な魔物がいるって言ってたのにね」

「なんでだろうね?」


そう。ユキさんに気を付けてって言われたんだけど、なぜか全く魔物に出くわすこともなく、ここまでやってきているんだよね。


「……理由を今考えても仕方がない。魔物に会わないだけ助かるし、今はラッキーと思えばいい。……と、ここが目的地のはず」


そう言ってカヤが立ち止まる。

僕たちもその言葉に立ち止まったけど……。


「どこからどう見ても、ただの草木が生い茂った森ですわね」

「別に何の目印もないしね。ここを見つけるのは確かに無理だね」


僕がそういうと、全員が頷く。

ここを発見できるとしたら、鳥ぐらいじゃないかな?

さて、場所にはたどり着いたし、あとは……。


「じゃ、今からダンジョンを作るよ」


トーリがそういってダンジョンコアを取り出して地面に落とすと、トプンと水に落ちるようにコアが地面に飲み込まれて行って……。


「作るのは、えーととりあえず、ゲートを建設するだけのスペースがあればいいんだし、単純な地下一階構造で」


トーリはそう言ってここほれワンワンを操作すると、トーリの目の前が光ってダンジョンの入り口が出現する。


「で、あとはゲートを設置してと。よし、設置完了。リエル、ユキさんに連絡お願い」

「おっけー」



そこからはもう簡単で、ユキさんもすでに準備を整えていたんですぐにゲートも繋がって、スティーブたちがあっという間にやってきて、てきぱきと準備を始める。

僕たちはスティーブたちがいろんな作業を開始するまえに、最初に用意してくれた宿舎に陣取り、辺りの索敵を始めている。

ダンジョンの支配下はこれができるからね。

強い魔物がいるならこれで引っかかるはずなんだよねーなどと思っていたんだけど……。


「あれ? 僕のMAPには魔物の反応がぜんぜんないんだけど?」

「……こっちもない。トーリとシャールはどう?」

「私もないかな」

「私もありませわね。というか、魔物どころか大型の生き物すら見当たりませんわね。ここまで大きな森なら鹿やイノシシがいてもおかしくないのですが」


シャールの言う通り、反応があるのはせいぜい狸とかウサギとかの小動物ぐらいで、妙に静かすぎる不自然な森だ。


「とりあえず、モーブさんに連絡とろうか。ザーギスなら何かわかるかもしれないし」

「……こういう難しいことは、ザーギスに任せればいい」

「そのために連れてきたんですからね」


うん。僕も同意。

こういうことは専門家に任せるほうがいいよね。

ということで、僕たちは町で情報収集をしているモーブさんたちに連絡を取るのであった。


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