第867堀:任務終了と
任務終了と
Side:ドレッサ
「……ということで、シーサイフォ側とは話が付いた」
私たちシーサイフォ海域探索艦隊は、ユキからシーサイフォ上層部との話し合いの結果を伝えられていた。
まあ、簡単にいえば、今回の仕事はとりあえず終了。
特に問題もなく、私はこの任務を成功裏に終わらせたということ。
「ふぅ」
私は思わず安堵の吐息を吐いていた。
ユキから信頼され、任された任務を無事にやり遂げたわけだ。
とはいえ、不測の事態なんて結局起こらなかったし、得た経験としてはまだまだとは思うけど。
あくまでも、ユキの万全な方針と恵まれた部下のおかげで今回の任務が何事もなく成し遂げられたというのは嫌というほどわかっている。
「残るは、前に言っていた、沈没船からの遺品等の物資回収を引き続き行い、それをシーサイフォに届けるのが一つと、海域の詳細調査が今後の仕事だ」
「了解」
そして、これからは基本的には沈没船のサルベージの仕事を継続することになったみたいね。
まあ、それもシーラちゃんやサハギンたちがメインとなって回収してくれるから、私は基本的に、指令室で資料作りがお仕事。
……気が滅入るけど、しかたないわね。
と、そんなことを考えていると、ヴィリアが質問をする。
「お兄様。この海域の敵性魔物の排除は終わりましたが、ブルーホール一帯をダンジョン化した際に、ハイレン様の結界を越えた影響で外洋の魔物が流れ込んでいる件については?」
「そこはまだ機密だ。とはいえ、特に人を襲う魔物はいないからな。わざわざ話す必要もない。シーサイフォ側もようやく魔物による襲撃が解決したばかりだから、あえて波風を立てる必要はないと判断した」
「わかりました」
なるほど。ユキたちはこのハイレンの結界を越えたことによる魔物のブルーホール海域への侵入は実害が無いものとして無視しておく方針なわけね。
まあ、ユキの言うようにこちらを襲うことがない魔物をわざわざ警戒しても仕方ないわよね。
「それに、元々、結界の境界も近いから、ここを通っていた輸送船は魔物との遭遇もこなしていたんだと思う。今更遭遇範囲が変わっても数キロ程度だからな、誤差の範囲だろう」
確かに、海の上で明確な目標物があるわけじゃ無い境界なんてさっぱりわからないし、数キロなんて誤差の範囲よね。
「それに関連し、ブルーホールに建設したダンジョンではコメットとエージルが色々調査を始めて、未知の魔物も多数発見されている。今のところ総じてレベルは低く、ステータス的には問題ないが、どういう能力を持っているかはまだよくわかってないから、調査や研究などで、接近する際には警戒を怠らないようにしてくれ。主に接近するのはシーラちゃんたちになると思うが」
そこには警戒は必要よね。
未知の魔物とか厄介極まりないし、そこの情報収集と更新はちゃんとしておこう。
確か、今日のコメットとエージルの報告書にも、新種の魔物に関しての資料があったわね。
「変なお魚さんは美味しいかな?」
「ヒイロ。食べる前にちゃんとコメットたちに調べてもらえよ」
「うんお兄、まかせて。なんでも勝手にはヒイロは食べない。美味しいものだけ食べる」
「はは、そうか。何か美味しいお魚があったら教えてくれ」
「うん。お兄にこの海で一番おいしいお魚食べさせてあげるね」
「ありがとう」
……ヒイロは何やら妙な話をしているけど、実際ヒイロは好奇心旺盛で、資料として送ってきた魚を見繕って食べようとするのよね。
そして、それが意外と美味しいのよ。悔しいことに。
「ま、ヒイロみたいに、食べられるものも調べてくれると、今後の漁で参考になるからな。余裕があれば食べる方法も合わせて調べてみてくれ」
「わかったわ」
「わかりました! お兄様が喜ぶ料理を作って見せます!」
ヴィリアはユキの言葉にすっかり今の立場を忘れているわね。
はぁ……。
「ヴィリア、あなたとヒイロは、シーサイフォ艦隊の護衛任務が最優先よ。料理ばかりに時間を割かないように」
「ま、程々にな。で、シーサイフォ艦隊で思い出したが、長期航海とまではいかないが、シーサイフォの海兵たちの様子はどうだ? 思いのほか拍子抜けの結果だったし、何か問題は無いか?」
私の言葉でヴィリアとヒイロの仕事を思い出したユキは二人にそう質問をするけど……。
「いえ、特に問題はありません。皆さんよくしてくれますし、キチンと働いています」
「うん。ヒイロのところも同じ。だから、ヒイロも一生懸命お手伝いするんだけど、それ以上にみんな頑張るんだー」
「そうか。それならよかった。まあ、事前に実力を見せつけたからな、そういうところは問題なかったか」
そう、このシーサイフォ艦隊は以前私たちが締めた…じゃなくて、模擬戦をした第三艦隊の連中だからね。
あれで私たちの実力を疑っていないから、特に問題は無かった。
まあ、実際にはあまりに暇すぎるので、戦闘訓練をヴィリアとヒイロに挑んでは返り討ちにあっていたけど。
「それで、私たちのことはいいとして、ユキたちはこれからどうするの? マジック・ギアの行方を追って、グスド王国に行くの?」
「いや、まだシーサイフォは安定していないしな。大陸間交流同盟への参加手続きもあるから、しばらくはその処理に追われる。その間にマジック・ギアの内偵も済ませておく」
「なるほどね」
確かに、こっちに来てから色々あって全然落ち着いてないものね。
シーサイフォも大陸間交流同盟に参加させるなら、それ相応の手続きが必要になるか。
そのために一時休止ってことね。
「で、あとは、一応第一目標は完了したから、一旦休暇、お休みだ。皆頑張った分しっかり休んでくれ。ああ、あと今日は任務成功のお祝いやるから、8時には自宅に集合な」
「「「はい」」」
「じゃ、今日のお祝いや休日がゆっくりとれるように、今のうちに細かいことを済ませておこう」
ユキにそう言われて返事をする私たち。
ようやく、私もウィードに戻れるのね。
なんか、一か月近く海の上で過ごしたから、随分とウィードが懐かしいわ。
で、そのあとはいつもの艦隊の補給などの細かい話をしたあと、会議は終わりとなった。
「「「……」」」
ユキたちが会議室から出て行ったのを見届けて、私たち3人は……。
「「「やったー!!」」」
3人で歓声を上げて喜ぶ。
「やったわ。ユキが任務完了って言ってくれた!!」
「はい。頑張ったって言ってくれました!」
「お兄の役にたったよ!!」
そう、初めて正式な立場の者としてユキから任された仕事を完遂したの。
今まではギルドの清掃員とか、臨時の護衛だったり、外務省の臨時職員みたいにお手伝いみたいなかんじだったけど、今回は初めて、私が艦長として空母を運用して、全体の作戦の要として機能して、作戦を成功させた。
これが、私にとって一番うれしかった。
色々準備は万全に整えてもらったけど、それでも……ようやく、私はユキを支えられる人になれたんだって自分で思えたんだ。
だから、私にとって、いや、ヴィリアやヒイロにとっても今日は記念すべき日だ。
だが、こんなことで浮かれるわけにはいかない。
仕事の一つが終わっただけで、まだまだこれから途方もない仕事が数多く待ち構えている。
ユキを支えていくというのはそういうことなの。
だから……。
「さ、ユキに褒めてもらって嬉しいのは私もだけど、浮かれすぎて、休みの間の手続きをミスって、大事になるとかみっともないことはできないから、しっかり仕事を終わらせるわよ!」
「はい。そうですね!」
「えー、ヒイロ。もう、書類仕事したくないー」
「「ヒイロ」」
「あぅ、がんばりまぁーす」
ということで私たちは、いつものように書類仕事には後ろ向きなヒイロをなんとか引っ張って、最後の最後にミスをしないために気合を込めて、お休み前のお仕事をきっちり終わらせると、気が付けば時計は6時を指していた。
「意外と遅くなったわね。休みの間の指示を出すっていうのも大変ね」
私たちは時計を見て、ちょっと遅くなった家路を急ぎながらも仕事の話をしていた。
「はい。思ったよりも休みの前に指示をしておかなくちゃならないことが多かったです」
「シーサイフォの人たちもゲートを使って交代する手続きがたくさんあったよー」
「ああ、シーサイフォの方もお休みを出すってレイク将軍が言っていたわね」
「はい。アクアマリン宰相の方から、艦隊の船員入れ替えの書類が届きました。ドレッサの方に提出していますよ」
「ちゃんと確認しているわ」
シーサイフォの方も今回、ユキからの報告を聞いて、多少なりとも安心したってことね。
「ヒイロは、それの個人個人の申請処理だよー。あと少し多かったら危なかった……。で、ドレお姉は何してたの?」
「私? 休みの間の物資補給の手配とか、代わりの艦隊司令とか……」
「え? 代わりの艦隊司令ってだれ? お兄? それともお姉たち?」
「それはないわよ。ユキたちは外交関係で忙しいし、これからシーサイフォ王国を大陸間交流同盟に参加させるって大仕事があるから。艦隊司令の代わりは、スティーブたちよ」
「スティーブですか? でもスティーブたちは、弐番艦リリーシュの方にいるのでは?」
「あっちは引き上げるらしいわ。まあ、こちらの海域ではもう魔物は排除出来たんだから、今後特に防衛線はいらないだろうってことになったみたい」
まあ、空母一隻を運用するとなるととんでもないコストがかかるから、無意味に配備しておきたくはないわよね。
私も空母の運用費用をエリスやラッツから見せられたときは目が飛び出るかと思ったわよ。
ユキが飛行機一機にでも傷をつけるなよ! とか、言ってたのが不思議だったけど、その意味はよく分かったわ。
で、シーサイフォの方も同じで、船員の入れ替えとともに総数を減らしているところを見ると、やはり海に出るのはかなりコストのかかることなんでしょうね。
で、そんなことを話していると……。
「おーい、仕事熱心なのはいいが、休む時にはちゃんと休めよ」
そんな声が後ろから聞こえたので振り返ると、そこにはスーパーのビニール袋を抱えたユキたちが立っていた。
「今日は、焼き肉だよー」
「最高級焼き肉なのです!!」
「今日の主役は海で頑張ったドレッサたちなんだから。仕事のことは今は忘れておきなさい」
「ええ。ラビリスの言うように、こういう息抜きをきちんとすることも上に立つ者には必要なことですよ」
アスリンたちはそう言って、持っているビニール袋から、美味しそうな霜降りのお肉たちを見せてくる。
うわ、あれってスーパーで一番高い奴じゃない!?
これは、今日の焼き肉は戦争になるわね。
トーリやクリーナを筆頭に肉好き達が暴れまわるに決まっている。
油断すると、食べられなくなるわね……。
と、私がそんなことを考えていると。
「心配するな。ラビリスが言ったように今日の主役はドレッサ、ヴィリア、ヒイロだ。ちゃんと別にみんなのお肉は確保してある」
ユキはそう言って、さらに分厚い霜降りのステーキを私たちに見せてくる。
「いいの? これ高いでしょう?」
「お兄様。こんなにしていただいていいのでしょうか?」
「やったー! お兄大好き!」
「おう。それだけドレッサたちは頑張ったからな。遠慮なく食べろ!」
「「「やったー!!」」」
こうして、私たちのお休みの始まりは、好調な滑り出しで始まったのだった。
「……あれ? これでご褒美終わりってことはないわよね?」
これから、きっとユキとのロマンスが始まるのよね?
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