落とし穴136堀:課金というのは湯水の如く
課金というのは湯水の如く
Side:ユキ
「どうよー。私たちの人気はこれでうなぎのぼりよー!!」
そう言って威張るのは、女神ルナ。
何を威張っているかというと……。
『『『必勝ダンジョン運営方法』』』
「「「おおーー」」」
っと、なぜか俺たちがゲームになったという、わけのわからんことを自慢しているのだ。
「意味が分からん。俺たちは現実で、ゲームじゃないぞ」
「ふふん。お約束の分岐世界の話よ。ユキたちのことが物語として書かれ、それが人気が出てゲーム化した世界があるのよ。ほら、世界線とか、似て非なる世界ってやつ」
「一種のパラレルワールドか。まあ、それはいいけど、それなら時間軸もクソもないはずだろうし、なんで今頃なんだよ」
「いや、最初に見せても意味がわからないでしょう? 私の立場もみんなの中に確立してきたから、そろそろ見せようと思ったのよ」
「……とりあえず、害はないんだな?」
問題はそこだ。
ルナが持ち込む物が厄介事でなかったためしが無い。
正直な話、PC画面に映っているゲーム画面をさっさと消して、データ自体もきれいさっぱり抹消したいのが本音だ。
とはいえ、嫁さんたちが喜んでいるからそうもいかない。
なので、害悪とわかるまでは、うかつに消すと非難が集まりそうなんだよな。
「あ、因みに、ガチャゲーだから」
「おもいっきり害悪じゃねーかよ!」
俺とて、オタクの一人。
ガチャという名の底なし沼の恐怖を知らないはずがない。
法令で禁止されたガチャ商法もあるくらいなのだから、どれだけガチャが財布に与えるダメージがすごいのかというのがわかる。
俺は元々そこまで財布に余裕があったわけでもないし、ガチャというタイプのゲームを遊ぶより、据え置きのゲームを遊ぶ方が好きだったのが幸いしてそこまで被害はなかった。
正直、一般ゲームを購入した金額を上回るとやる気がなくなるんだよな。
だが、社会人時代の同僚であり友人は、毎月食費を削ってまで金を突っ込んでいた。
まあ、ガチャゲーを始めてから、太っていた友人が痩せたのは……いいことなのか?
と、そんなことはいい。今はこのガチャゲーのことだ。
「で、俺たちに金を突っ込んで遊べって話か?」
「え? いや、今のあんたたちに、一般市民がする程度の課金じゃあ別に懐は痛まないでしょうに」
そりゃ、いまやウィードという名の国の重鎮だからな。
金銭的に困ることはないが、それはあくまでもこちらの世界でだ。
「いや、日本円はもってねーよ」
そう。異世界であるウィードでどれほど莫大な資金を持っていようが、日本の、地球のお金を持っているわけではないのだ。
「別に、そこらへんは電子マネーだから、ちょちょいと増やしてあげるわよ。運営に怪しまれない程度にしなくちゃだから、直接にDNNのポイントを増やすんじゃなくて、ここの電子マネーを突っ込んでおくからそれでポイントを購入してね」
「お前、プログラム系は無理じゃなかったのかよ」
「プログラムとかハードを作るわけじゃないからね。数字を弄るだけの話だから、特に問題ないわよ。ちゃんと死蔵されているお金をかき集めて、ちゃんとした口座から引き落とすようにしているし」
「そこはちゃんとしているんだな」
「ちゃんとしないとすぐにアカウント凍結よ。単に数字を書き換えるなんてしたら、いきなり電子マネーがドンと増えるんだから、怪しさ満点なのよ? ま、ということで、お金のことは気にせず遊びなさいな」
ルナがそう言っているので、一応、金銭面の心配は無用の様だが……。
「で、結局このゲーム、誰がするの?」
「そうですね。やはり、こういうのは旦那さまでは?」
「そうじゃのう。妾たちもゲームには慣れ親しんでおるが、やはりゲームといえばユキじゃしな」
「では、ユキさん。お願いします」
まあ、流れは至極当然のように俺がゲームをプレイすることになったのだが、問題は、このことによる……。
「あれ? このガチャって、私が出てないんですけど?」
「そうですね。というか、リーア、私、サマンサ、クリーナなど、ずいぶん多数がいませんね」
「不思議ですわね。エアさんどころか、ディフェスさん、ローデイさん、スィーアさんまでもがいるのに……」
「……このゲームは欠陥品。学長がいるのに、私たちがいないのはおかしい」
未だに実装されていない、嫁さんたちの不満の声だ。
「まあ、ゲームが稼働開始したばかりだからな。様子見ってところと、今後のアップデートで追加されるってことだろうな。で、タイキ君、詳しい説明頼む」
「えっ!? 俺がですか? まあ、俺も出てないから、問題ないのかな?」
そう言うと、タイキ君が説明を始める。
「こういうゲームっていうのは、原作に沿って一気に全部作ってしまおうとすると、とても開発費がかかるのはわかりますよね?」
「ああ、それはわかります。だから、一気に作らず、人気の出方を見てちょっとずつってわけなんですね」
「なるほど。それで、人気が出なければ撤退と。まあ、基本的な商売の動きですね」
そういってすぐに納得したのは、ラッツにエリスというお金に関することに携わるメンバーだ。
そのおかげで、ゲームに出ていないリーアたちも、そういうもんなんだと納得するが……。
「ちょっと、まちなさい。私がなぜかSRなんだけど?」
「あ、僕もだよー!! 不満、不満だよ!!」
「そういわれると、私とフィーリアちゃんもSRだねー」
「私たちはレア度が低いのです。ラビリスとシェーラはSSRなのです……」
自分の価値がゲームシステムの都合で決められているので、こういう不満が出てくるのだ。
まあ、これは原作があるゲーム化ではよくあることだ。
自分ではこのキャラクターが強いと思っていても、ゲーム上では微妙だったりする。
それはそのキャラクターに思い入れがある人にとっては不満となる。
こういうのが揉め事の原因になりやすい。
とはいえ、最近では……。
「ん? ちょっとまって。着物姿の私はSSRなのね」
「あ、私も着物姿があるよー」
「フィーリアもサンタ姿あるのです。SRだけど」
「ちょっとまってよー!? 僕なにもないんだけどー!?」
えー、リエルは含まれていなかったが、ほかのみんなのように着物とかサンタとか衣装を着せた状態で別キャラクター扱いという禁断の商法が存在していたりする。
無論、ガチャを回せということだ。
こうして、果てしなくお金を飲み込んでいくのだ。
そしてなにより、問題なのは……。
「まあまあ、無い物はしょうがないですし。とりあえず回してみましょう。お兄さん?」
「あ、ああ。そうだな」
俺はラッツの言葉にちょっと気遅れしながら回すしかない。
俺は恐る恐るガチャのボタンを押して……。
「わー、面白いですね。これがガチャの演出ですか?」
ミリーがそう言って、みんなが興味深そうに、ガチャに視線を向けて……。
10連は最低SR確定らしいのだが、運よく初っ端から虹がでて、SSRが来たのだが、みんなガチャの演出の意味なんて知るはずもないので、とりあえず特に俺も反応をしないでいた。
普通は、ガッツポーズをするところだからな。
タイキ君も藪蛇だとわかっているようで、うっかり口を開くことなく、静かにガチャ結果画面がでるのを待つ。
10個中Rが8つ、SRが1つ、SSRが1つという、まあ定番の結果ではある。
そして、1個ずつ、ガチャの内容がわかっていく。
まあ、R枠にはモーブたちや、オーヴィクなどが出てきて……。
「あー、モーブさんたちがRなんだー」
「実力はあるんだけど、Rなんだね。オーヴィクたちは納得だけど」
「……意外」
さりげなく、トーリにディスられるオーヴィクたち。
あとはSRが……。
「あ、私だー」
「アスリンが出たのです」
「いいわね」
「はい。可愛らしいですね」
ちびっこたちが騒いだ通り、SRアスリンがでた。
まあ、アスリンたちはそこまでレア度にこだわってないのか、素直に出たことを喜ぶだけで済んでいる。
そして、問題はSSRなのだが……。
「おおっ。何と妾か」
SSRとして出たのは、デリーユだった。
「うむうむ。ユキとは、ゲームであっても離れられない縁があるんじゃのう」
あ、デリーユのバカ。
そんなこと言うと……。
「「「……」」」
まだゲーム内で出現していない嫁さんたちが、一気に不満顔になる。
こういうのはただの運でしかないのだが、こうして、出た順とか付くと嫁さん的には面白くないわけだ。
「……ユキさん。俺、用事思い出したんで帰りますね」
「あ、ちょっとまてっ!?」
この事態を正確に理解しているタイキ君が真っ先に逃げ出した。
クソッ!? 追いかけて捕まえないと、と思って立ち上がろうとしたが……。
ガシッ!!
肩を鷲掴みされる。
「お兄さん。まだ私がでていないんですけど?」
「そうですね。まだまだ私たちがでていないので、しっかりガチャを回すべきですね」
振り返ると、ラッツとエリスが真剣なまなざしでそんなことを言ってくる。
目が笑っていない。
とりあえず、説得を試みる。
「まあ、2人とも。これはゲームだ。現実とは違う。そこまで真剣になることもないだろう?」
「ゲームだからこそ現実以上に真剣になるといつもお兄さんは言っていましたよね」
「ええ。言っていました。だからこそ、ゲームの中でも、ユキさんは私たちをしっかりそろえて、ゲームに臨むべきだと思います」
「そうですね。ほら、ガチャを引きましょう? 次はきっと私が出ますから」
説得失敗。
単なる運でしかないのに、そもそも出た順番なんかに意味をつける価値が全くないのだが、まあ、運命があると思いたくなるのはわかる。
だがな。この順番のことで嫁さんたちの仲に亀裂が入るのは望んでいない。
あの駄目神。本当に厄介なことしやがって!?
ウィードが始まってというか、このアロウリトに来て以来、俺たち夫婦の最大のピンチじゃないか!?
これはガチャを回しても解決しないんじゃないかと、冷汗を流していると……。
「心配しなくてもいいわよ。この程度で私たちの仲が悪くなるわけないじゃない。ね?」
セラリアが俺の心情を察してみんなにそう言うと……。
うんうん。
と、普通に揃って頷いてくれる嫁さんたち。
「ほっ、じゃあ。別に……」
「とはいえ、どんなふうにゲームで描かれているのかは見たいから、まずはガチャを回してみんなをそろえてね」
「……わかった」
ということで、俺はひたすらガチャを回すことになったのだが、全キャラが揃うまでに、恐ろしいほどの額を消費してしまい。
地球にいたころの俺なら胃が痛くなるレベルの散財をしてしまったのであった。
いや、金は全部ルナが持ってくれていて本当に助かった。
「あ、ユキさん。あれからどうでしたか?」
「ていっ」
ぺシン。
「あいた!?」
とりあえず、次に会ったときタイキ君は一発殴っておいた。
そういえば、タイキ君は今のところ出ていなかったが、タイキ君はレア度はどうなるんだろうな?
あ、思いついた。
「あのゲームでタイキ君が出てきた時は、真っ先に売却か、合成材料な」
「え。それはないでしょー!? SSRかもしれませんよ?」
「いやー、ないだろう」
「ま、そうですよね。美少女最優先みたいだし」
と、2人で笑ってゲームのレベル上げに勤しむのであった。
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