第167掘:いま忙しいの
いま忙しいの
side:オリーヴ・メルト ジルバ帝国軍所属:炎姫騎士
「ミスト、陛下に許可はもらったけど、実際どう思います?」
私は謁見後、王都にある私たち姉妹の家で今後の相談をしています。
「どちらのことですか、お姉様? マーリィ様の真実か、それとも今後の展開ですか?」
「どちらもですわ。しかし、今聞きたいの今後の展開ですわね」
ミストは私と似て、素晴らしいオレンジの髪をもって、美貌も私と並ぶほどです。
魔剣も同じように使え、唯一違うと言えば、私よりも頭を使うと言うところでしょうか。
ですから、なるべくミストの状況分析をもとに、私が案を出して、ミストが細かい修正を行い実行するのです。
「今後ですか……。うん、お姉様の言う通り結局どちらも説明をすることになりますね。やっぱり、お姉様の直感は素晴らしいです」
「それはミストがいてこそですわ。で、どう思いますか?」
「そうですね。今回の原因となる、マーリィ様の側近ジェシカがオークにやられた件ですが、やはり嘘だと思います」
「やっぱりミストもそう思うのかしら?」
「はい、あのマーリィ様の側近のジェシカがオーク如きに遅れを取るわけありません」
「確かに、私たちが魔剣の力を使っても相応に戦える女性だったわ。オーク程度に不意をつかれたとはいえやられるわけはないわね」
「正直、マーリィ様の部下でなければ引き抜いていたほどの人物です。と、ジェシカの評価は置いておいて、情報を聞きだした兵士からの話が本当だと思います」
「ミストも同じ判断ですのね」
「やはり、お姉様もですか。荒唐無稽な話ではありましたが、マーリィ様が150前後の傭兵団に負けて捕縛されたという話は真実だと思います」
そう、私たちは事前にこの情報を仕入れてから、今回のマーリィの謁見に割って入ったのです。
私たちも兵士から聞き出しましたが、マーリィが敗北したとの情報はどうにも納得できませんでした。
しかし、実際謁見室でこちらから挑発をかけてみたのですが、なにかおかしい。
対応としては至極当然。でも、なんとなく報告内容に違和感を受けた。何故なら、ジェシカが本当に戦死しているなら、もう少し感情の動きがあっていいはずです。
いくら貴族で戦に赴く魔剣使いであっても、仲間の死に無感情ではいられないものですわ。
しかも、不意をつかれたという、いわば指揮官、つまりマーリィの油断によって命が奪われたのです。
なのに、彼女は自分をオーク討伐はともかく、防衛に使ってくれと言いませんでした。
オークによって部下の命や面子をつぶされたと言ってもいいはずですのに。
ですから、兵士から聞き出した、傭兵団に敗北したという可能性を見出したのです。
細かい理由はミストが考えますけど。
「詳細は不明ですが、多分捕縛から、解放される条件にマーリィ様が傭兵団へ接触することを禁止されたのではないでしょうか? そうならば、マーリィ様が真実を語らない理由はわかる気がします」
「なぜでしょう?」
「そうですね。マーリィ様が敗れる程の傭兵団なんて聞いた事ありますか、お姉様?」
「いえ、ありませんわ」
「私もです。ですから、実は傭兵団は私たちと敵対したくないから、口止めをしてマーリィ様を解放した。または、本当は傭兵団なんか存在しなくて、亜人たちにやられたか……」
「うーん、後者はないと思いますわ。隠す理由がありませんもの。というか、捕縛されたのなら首になってますわよ」
「やっぱりそうですよね。なら本当にマーリィ様を退けた傭兵団がいると言うことになります」
「その傭兵団とことを構えるべきかしら?」
「いえ、マーリィ様を逃がした経緯から見ても、敵対したいとは思えません。ですから、上手く引き込めば、良い戦力が増えるかと思います。万が一戦闘となっても……」
「こちらは相手の奇襲も分かっていますし、マーリィの時に比べ倍に近い数。一気に押しつぶしてしまえるわけですわね」
「はい、お姉様」
「なら、交渉云々より、一度攻めて、生き残った傭兵たちを部下に組み込むことにしましょう。下手に最初から交渉すると舐められるかもしれませんわ」
「そうですね。力関係をハッキリさせておけば、大人しく私たちの言う事を聞くはずです。流石お姉様です!!」
「それも、ミストがいつも考えてくれるおかげですわ」
「では、早速遠征の準備を始めます。ですが、一つだけ気になることが……」
「なにかしら?」
「はい、兵士から聞き出した情報に、その傭兵団の150名のほとんどはゴブリンで編成されており、マーリィ様もゴブリンに敗れたとか」
「流石にありえませんわ。兵士の情報では、本陣が落とされたのが敗北の原因ですから、それは誤情報でしょう。ゴブリンにしてもどこの傭兵団でも壁役で数体から数十体飼っています。負けたので、おとり役のゴブリンが目に焼き付いてるのでわないかしら?」
「そう……ですね。同じ魔剣使いであるマーリィ様が、どうやればゴブリンと戦って負けるか私も想像ができません」
「ゴブリンで思いだしましたが、血戦傭兵団という可能性もあるかと思いましたが」
「それは無理です。その傭兵団は敵国のさらに奥の国で雇われている情報がありますから」
「ええ、私もそう思いまして、ゴブリンが大量と言う情報を誤情報と見たわけですわ」
「ありがとうございますお姉様。これで心配事が減りました。私たちが奇襲に注意し、敵を倒せばいいだけ。いつもと同じですね」
「ええ、戦いとは基本が一番大事なのです。さあ、この戦いを制して、まだまだ上にまいりますわ」
「はい、もっと偉くなって、領地の民にもっといい暮らしをさせてあげましょう」
私は、ミストと自分たちの目標を再確認し、遠征の準備に取り掛かるのでした。
side:ユキ
いつもと同じように、ザーギスと魔力の研究をしていたのだが、その日は別の報告がくる。
「ユキさん、ジルバ帝国に動きがありました」
リーアがいつもの通りに、資料の整理をしていたのだが、突然そんなことを言いだす。
「どうした? って、こっちもそんな噂を受けてるな」
俺たちは前に行ったフェイルの街に斥候もとい、ドッペルを送り込んで情報収集をさせている。
その中で、ジルバ帝国が亜人へ向けて軍を動かしたと噂があった。
「はい、噂は前からありましたけど、今回は裏付けもできました」
「へえ、どこからだ?」
「マーリィさんからですよ」
「へぇ、あいつがわざわざね」
「ついでもあったのでしょう。ジェシカさんへの手紙もありましたし、マーリィさんの軍はフェイルを経由して聖国への戦へ再び戻るみたいでしたから、その時にですね」
「なんだ、姫さんのやつ街に寄ってたのか、こっちにはなにも挨拶はなかったぞ」
このご時世、前線に近い街は軍の行き来が多いから、来てたのに気が付かなかったわ。
聖国から奪い取ったフェイルに至っては、物資の運搬や、兵士の補充、後送などで、山ほど軍人の行き来がある。
「まあ、ユキさんは基本裏で情報集めていますし、その関係でマーリィさんと接触することがなかったのでは?」
「確かに、ユキは酒場を中心に探っていたからな。それでは姫様はユキと接触する機会がない。そもそも、下手に会話をするわけにもいかない。名目上は姫様は亜人の討伐にオークの討伐を成功させたことになっているから、ユキに会って気おされていると見られればまずい」
横から、ジェシカも意見を言ってくる。
この一か月ほど、ジェシカはリーアと同じように俺の側近として働いている。
この大陸の情報や、古い……いや、この大陸の戦い方の指導など、この大陸で生きていた生の声、とてもありがたい。
まあ、ジェシカもウィードに通っては、今までの常識を吹き飛ばすような勉強をしている。
既に、姫さんを凌駕している実力を持ち、あのなんちゃって魔剣よりも強い剣をナールジアさんが作って渡している。
その剣を渡された時の顔といったら……。
「なにか失礼なことを考えていませんか?」
「考えてた。その剣をもらったときの顔がな」
「ああ、ジェシカさん泣き出しましたよね。このような剣を捕虜がいただいてよいのでしょうか? でしたっけ?」
「その話はやめてください!! しかたないでしょう、この剣はそれほど凄かったんですから!!」
「それでも私の剣よりは性能が低いのですが」
「当たり前です!! 勇者と同じかそれ以上の剣を与えられてどうしろと言うのですか!!」
「いや、普通に過ごせよ。俺みたいに」
「なれるか、過ごせるか!! はっ、そんなことより動いているのはどの軍団なのですか?」
ちっ、話を逸らしたか。
いや、普通なら軍が自分達に向けて動いたのは大問題なんだけどな。
「ジェシカさんが予言したとおりです。オリ○ーとピク○ンです。数はおよそ倍で建前上はオークに対する防衛と偵察です」
「いえ、オリーヴとミストですからね」
「建前上ってことは、他に目的があるってことか?」
「はい、マーリィさんからのお話であれば、本当の情報が流れて、私たちを支配下に置くのが目的のようですよ?」
「いや、どこが本当の情報だよ」
人の口に戸は建てられないのは知っているが、150で姫さん率いる2500を破った話も伝わっているはずなのだが……。
「恐らく、奇襲ということで、都合のいいように解釈したのでしょう。自分たちで実感しない限り、ユキたちの戦力を計るのは不可能かと。そして前も言いましたが、オリーヴとミストは出世欲が強いのです。姫様が失敗した相手を下せば評価は上がるし、ユキたちという精強な兵士も手に入ると考えているのでしょう」
「なるほどね。真っ向から叩き潰したんだけど、都合の悪い情報は耳を閉ざしたか。いや、理解できる情報だけ拾った感じか」
「で、どうするのですか?」
そういえば、そろそろ魔剣の分析もしたいんだよな。
丁度来てくれてるんだし、殲滅するか?
でも、使っている情報とかも欲しい、あれが本当にダンジョンコアを材料、あるいはそのモノなら、いま所持している魔剣使いから取り上げるのは嫌な予感がする。
なら、そのオリーヴとミストを生きて捕獲する必要があるな。
「うし。そのオリーヴとミストは捕獲して、魔力研究の実験に使う。よって、姫さんの時と同じで……」
俺はコールを使って、先の戦の英雄を呼び出す。
「なんすか?」
「スティーブ、これからおよそ二か月後、姫さんと同じ魔剣使いが2人、5000の兵士を連れてやってくる」
「はあ、戦いっすか? でもそれぐらいなら、大将たちや亜人にまかせりゃいいじゃないですか。いい加減、血の気多いやつらをあしらうの面倒っす」
「なるほどな。うん決めた、いまよりスティーブは亜人を率いて魔剣使いを撃退せよ」
「はぁっ!?」
「いや、詳しくいうと、その血の気の多い連中を、言うこと聞かせるために丁度いいだろう」
「ああ、適当に突撃させて、ピンチなったら助けて、おいらたちの言うことが絶対だと教え込むんすね」
「おう。そこら辺の調整は任せた」
「へいへい、撃退くらいならどうにでもなりますよ」
あ、ノリで撃退って言っちゃたのか。
訂正しないとな。
「あ、すまん。撃退じゃなくて捕獲でよろしく」
「無茶言わんでくださいっす!! 今、亜人たちが集まっているとはいえ、この村をまずは大きくしてキャパシティ上げてるところっすよ!? 現在は精々500ぐらいしか戦闘要員いないっす!!」
「おー、集まったな。ま、精々10倍程度だし頑張れ。最悪俺が魔剣使いは抑えるから」
「本当っすね?」
「おう、俺嘘つかない」
「なんすかその胡散臭さは」
「だから、予算のすり合わせは自分でやってくれ、こっちは魔力研究でいそがしいから」
「ひぃぃぃいいいぃぃぃいい!! 嘘は言ってないけど、一番厄介なこと押し付けやがったっす!? 戦争の予算ってセラリア姐さんに直談判し、エリス姐さんの会計を通し、物資をラッツの姐さんへ発注するという、書類地獄じゃないっすか!?」
「別にお前の給料でどうにかしてもいいのよ?」
「おいらの安月給じゃむりっす!! というか、大将が話せば一発で通るでしょうに!!」
「いや、そこまでは無いけどな。ちゃんと書類作って話をとおすぞ? まあ、ちょいミスぐらいは勝手に修正してくるけどな」
そりゃ、嫁さんだし。
「くそー、やってやるっすよ。どうせ断ったら魔力研究のトライアルっしょ?」
「おお、わかってるじゃねーか。魔力ゼロの状態で魔物がどこまで活動できるか観察があってな、それをスティーブに……」
「仕事があるんで失礼するっす!!」
ち、逃げた。
「……スティーブが、あの戦いの時に言った言葉の意味がわかる気がします」
ジェシカがなにか悲しそうに、スティーブが逃げ出した扉を見つめていた。
なんの話したんだろうな?
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