第122掘:相談

相談



side:ユキ



ふう、やってしまった。

結局、リーアと一緒に最後まで先生を勤めてしまった。

まあ、どこかに影響があるわけじゃないし、アスさんの奴隷商誘致に関してはエリスがやってくれたからいいんだけど。


理由としては、久々に子供達と過ごして楽しかったから。

本音は、カヤが言っていたリーアの心の傷がどれほどの物か見てみたかった。

まだ、一日だからなんとも言えないが、多分これ身体に影響が出るぐらい心がダメージ負っていないか?


だって、学校で一度も、誰の名前も呼ばなかったんだから。


意図的に言わないのか、言えないのかは分からんが、どっちにしてもかなり重症だ。

俺は心理学とかカウンセリングとかはできないが、あそこまで露骨だと拙いとわかる。

これは、リーアを嫁さんにする以前の問題だ。

というか、これを改善しないと、死にそうな気がする。


まずは情報収集だな。

一緒に来た3人に話を聞くしかないな。

アスさんに聞いたら恐縮してしまいそうだ。


俺から聞くのもアレだしな、夕飯時にでもエリス達に相談してみよう。


「リーア、今日はどうだった?」

「はい、とても、楽しかった、です」

「そうか、よかった。何かさ緊張してるみたいだったけど、学校に来てから笑ってたし、これからも大丈夫そうか?」

「え、笑って、ました?」

「ああ、気が付いてなかったのか? まあ、それはそれでいいことだ。自然に笑えるなら子供のいる学校は適任かもな。作り笑いで学校行くのはどうかと思うしな」

「そう、でしょうか」

「一番は子供たちが喜んでたことだよ。それ以上の答えはないわな」

「はい」


しかし、学校という場所はリーアにとっては少なからず影響がありそうだ。

まあ、良い影響かは判断しづらいが、どのみち何とかしないといけないんだから、反応が出ている学校を使わない手はないだろう。

流石に生徒に手籠めにされたりしないだろうから、爆発の心配もないだろうしな。

下手な職場よりは安心か。


クソ、部下の職場状況も考慮しないといけないとは。いや、前から考慮してたけど、今回は人一倍考慮してるよ。

大変だね、管理職って。

普通の社長なら資金をかき集めるのが先なんだろうけど、立場上俺社長でもないからな。


とりあえずだ。今日、子供達はもう寮に返したし、俺達も家に戻るだけか。

あ、そういえばリーア達の寝床はどうするつもりなんだろうか?

また、同じ旅館でいいのか?

そんなことを考えていると、エリスからコールがかかってきた。


「はいよ」

『どうも、お仕事終わりましたか?』

「ああ、今帰ろうと思ったんだけど、リーアはどうすればいい? 同じ旅館か?」

『そのことでの相談です。とりあえず、4人と直接話をしましょう。どこかで晩御飯と言う事で集まりませんか?』

「そうだな。リーアも含めて4人の意向も大事だよな。家で食べる組は自分達でどうにかしてもらうか」

『そうですね。とりあえず、私からラッツ達に連絡を入れておきますので、場所は何処にしますか?』

「実験堂がいいだろう。あそこなら希望の個室取れるだろうし」

『わかりました。では後ほど』


エリスからのコールが切れて、リーアを連れて実験堂へと向かう。


「なにか好物とかある?」

「特には」


うーん、奴隷だった人ってこういうの多いんだよな。

自分の希望を言わないというより、言えないに近いが。


「遠慮しなくていいぞ、まあ、好物は無理でも食べれない物は無理に食べるな。食事なんだし、楽しくいこう」

「はい」



運がいいのか悪いのか、実験堂につくまでに、エリス達には出くわさなかった。

その間、適当に話をしていたが、なんというか、相変わらず俺が質問をしてリーアが答える形だ。

俺、なんか必死すぎね?

こうガツガツ行くのは趣味じゃないんだよな。

友人で合コン合コンって連呼する奴が一人はいるだろう?

それを見てげんなりしたというか、なんというか。


「へい、いらっしゃい。あ、大将」

「よう、今日はここで晩飯食わせてもらうわ。あと6人程くるから、俺の部屋に通してくれ。あ、個室空いてるか?」

「ういっす。空いてますよ」


軽く店主と話して、個室へ行く。

座敷の個室に腰を下ろす。


「リーアも旅館と同じように靴脱いで座ってくれ」

「はい」

「さて、何か食べたい物あるか? これメニューな」


そうやって、メニューをリーアに渡す。


「ええっと、殆どよくわからない名前の料理なんですが……」

「あ、そりゃそうか。ふむ、適当に頼むか。他の皆も来るし、残すことはないだろう」


と言う事で、焼き鳥や、グラタン等々、適当に頼む。

ラッツやミリーは焼き鳥好きだし、エリスはサラダ系が好きだからっと……。


「お兄さーん!! 愛しのラッツが来ましたよ!!」

「うおっ」

「へぅ!?」


注文をしたあと、ラッツが来てリーアごと俺に抱き付いた。

わざとだろ、ピンクうさぎめ。


「こら、ラッツなにしてるのよ。さあ、ユキさん貴方のミリーが来ましたよ!!」

「そうやって反対側から抱き付いてもな」

「うぐぐ」

「まあまあ、美人に抱き付かれて、おっぱいの感触も楽しめて嬉しいでしょう?」

「そりゃ嬉しいが、二人とも揉ませてくれって言ったら……」

「「存分に揉んでください!!」」

「っていうだろ。希少価値がな」


しかも、店で揉めって難易度が高すぎるわ。

俺は変態じゃない。

夜はもうこれでもかってぐらい揉み放題だしな。


「なにやってるのよ二人とも。連れて来た子達が唖然としてるじゃない」

「い、いえっ」

「と、とても夫婦仲がよろしいのですね!?」

「あの、エリスさんはしないんですか?」

「それは、夜にね」

「「「きゃ~~!!」」」


嬉しそうだなおい。

まあ、嫁さんの中で一番激しいのは誰かと言われれば、なんとエリスだ。

普段、真面目なせいか、夜は反動で凄い。

もう何というか凄い。

だって真面目に寝ないもん。

俺だって精力増強されてるけど、眠気は別だし、やれば疲れる。

が、エリスは完全に永久機関のごとく夜中して朝は寝てないのにツヤツヤになっている。

俺はきつかった。と、それはいいとして。


「リーアが挟まってるから、どいてくれ」

「はいはい」

「わかりました」


あっさり、離れる二人。

多分示し合せてやったな。

リーアの情報を少しは聞いてる感じか。


「大丈夫か?」

「は、はい」


よし、驚いてはいるみたいだが、無事みたいだな。

まったく、リーアの状況が分からないのに、アグレッシブな行動とるなよ。


「皆席についてくれ。注文は適当にしてる。飲み物を決めるだけだな」

「「「はーい」」」


そうやって、皆でメニューを回し見て各々飲み物を決めていく。

ここに初めて来た4人は分からないだろうから、色々頼んで味見をさせてみるという方針で決まった。



「うわー、美味しい!!」

「ねえ、コレも美味しいよ!!」

「本当だ!!」

「うん、美味しい」


まだ二日目なのにそれなりにこの子達は楽しんでいるようだ。

俺なんか、二日目はまだダンジョン作ってひーひー言ってたんだがな。

この世界の住人はたくましいわ。


「はい、お兄さんあーん」

「こっちもどうぞ」

「こっちのサラダも美味しいですよ」


それで俺の方は嫁さん達から甲斐甲斐しく世話されている。

いや、俺一人で食えますからね。

多分、3人だけで食事ってのが珍しいからか、普段はアスリン達の世話だからな俺は。

邪険にするわけにも行かないし、嫌いでもないから食べさせてもらう。


「さて、3人の方はどうだ? 俺の方は順調だけど」

「そうですね。こっちも問題ありませんよ」

「私の方も問題ありませんね」

「まあ、私もですが、まだ一日目ですからね」

「判断するのは早すぎるか」

「ですね。ま、長い目で見ていきましょう」

「別に合わないなら、別の職場を紹介すればいいだけですし」


お互いビールを飲んで一息入れる。


「いやー、仕事の後の一杯は美味しいですね」

「うん、このために生きてるって感じ」

「私はワインがいいですが、ビールも悪くないですね」


焼き鳥を食べつつのんびりする。

ある程度食べて、手が止まってきたのを見計らって次の話を振る。


「彼女達の住む場所だけど、どうする?」


俺が聞くと、エリスに視線が集まる。

エリスが大体考えてくれたのか。


「ありきたりな回答ですが、訓練所の独立棟の4人部屋に入れる。こちらで新居を用意する。が、適当かと」

「エリスの言う通りですね。それぐらいしかないですね」

「はい。彼女達はウィードのルールに疎いだけでそのほかはしっかり及第点ですから、訓練所でやることはないですし、お金を溜めて入る独立棟に入れるか、私達で新居を用意してそこに住まわせるかですね」

「でもね~、冒険者区の代表の私や、商業区代表のラッツ、娯楽区代表のエリスが新居を用意したとなると、その子達は特別扱いになるのよね」

「そうですね。お兄さん的にはどう思いますか?」

「俺もミリーの意見には同意だな。完全に特別扱いだよな。でも今さらでもあるんだよな」

「今さら?」

「もう、4人を俺達が引っ張って行ってるだろ」

「「「ああー」」」


つまり、今日一日新人を引き抜いて連れまわしているから、結局特別扱いには変わりないのだ。

勇者の事情があるとはいえ、他の人達には関係の無い事。

これを波風立てずにするにはどうしたものか。


「更に、リーアの件もある」


声を小さくして、現在4人で楽しそうにしているリーアをチラ見する。

彼女を一人にしていいものか、悩みものだ。

下手すればドカーンだから。

明日の話題でマンション一棟が崩壊!? なんて聞いた日には堪らんわ。


「じゃあ、こんなのはどうでしょうか? 二人一室と言う事で、新居を用意して、お金が稼げるまで、お互い一緒に住むことにすれば。今更訓練所に放り込むのは、ユキさんの話で、変な噂が付きかねないと思いましたし」

「そうですね。今日一日そばにつけて、明日は訓練所。他人から見れば役立たずに見えるかもしれませんね」

「うーん、リーアについてはユキさんがしっかり面倒見て欲しいんですけど、過度な特別扱いはあれですしね。とりあえず、リーアさんはユキさんと一緒に住まないかと聞いてから新居案内してみましょうか」

「可能性は低いと思うけどな。なにせ今日一日だけだぞ?」

「それは分かってますがね。危険は減らさないといけないでしょう?」



それはわかってるけどな。

今日万が一、リーアを連れて帰れば嫁さん達がどう反応するのやら。

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