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***


「暁くん、指輪って棺に入れられないんだって」


「は?!」


香苗が突然突拍子もないことを言い出したのは、結婚して数週間経ったときだった。


「え、何?何の話?」


「だからぁ、指輪は棺に入れられないの。せっかくこんな素敵な結婚指輪もらったのに。あの世に持っていけないなんて悔しいじゃない?」


「あの世って……」


俺はどう答えていいものか返事に困る。


「暁くん、私ちゃんと自分の余命知ってるから。気を遣わなくていいからね」


「別に気を遣ってなんか……」


「明るく笑い飛ばしてよ。私はその方が嬉しいな」


「……努力する」


「なんだとー?!」


香苗は俺を手招きすると、近寄った俺の頬をぎゅうっとつねった。


「い、痛い、ギブ、ギブ、香苗サン!」


「笑え~!あはは!」


いつだって香苗は明るい。

深刻な話も深刻にさせてくれない。

俺が香苗を助けてあげたいのに、逆に香苗に助けられる日々だ。


結局、指輪の話はなおざりになり、それ以降話題に上ることもなかった。

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