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事が終わったあと、ようやく日下さんは私を見た。


「芽生、泣いてるの?」


「……」


悔しい。

セフレにはならないと言っておきながら流されてしまった。こんなのセフレと一緒だ。


だって、好きな人に求められたら嬉しい。その気持ちが自分の抑止力より勝ってしまう。でも日下さんは私じゃなくて香苗さんを見てる。


悔しい。

悔しくてたまらない。


「ごめん、芽生」


日下さんは私の頬に手を伸ばしたが、私は反射的にそれを払いのけた。


「謝るくらいならしないでください。私は好きだから受け入れたまでです。だけど……日下さんの中には私はいない。私を見てないです。日下さんの中にいるのは香苗さんです。……香苗さんは何も残さなかったんじゃない。残しています。愛という形で日下さんの心に生き続けているじゃないですか」


自分の袖でごしごしと涙を拭い、私は勇気を振り絞るため拳を固く握った。


「本当に大事なものは目には見えないものなんです。人を愛するという気持ちは目には見えませんよね。見えないけれど、日下さんの心には存在している。香苗さんを愛しているという気持ちが確かに存在しているんです。香苗さんも日下さんを愛していた。それは悪いことですか?悪いことじゃないですよね。私は日下さんが好きだし、日下さんにも私を好きになってもらいたい。だけどそれは香苗さんを忘れてほしいと思っているわけではないです。日下さんの心の中に香苗さんがいても問題ありません。香苗さんを愛していても問題ありません。ただ、それに囚われずに私という人間を見てほしいだけなんです。ただ、それだけです。だから、日下さんが私を見てくれるまで、もうエッチしません。もう流されたりしません。私は日下さんが好きだから、間違った恋愛は今日でおしまいにします」


私は高らかに宣言し、カバンを拾い上げて逃げるようにその場を去った。

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