057

ある日のこと。


「暁くんと結婚したかったなー」


初めて香苗が弱音を吐いた瞬間だったように思う。その言葉に俺は二つ返事で答えた。


「ん、じゃあ結婚しよう」


「……嫌だよ。暁くんとは結婚しません。いい人みつけてください」


「俺は香苗がいいんだよ」


「バカじゃないの?お断りよ」


ふんと鼻で笑い香苗はそっぽを向く。そのまま後ろから抱きしめると、香苗の細さがダイレクトに伝わって胸が傷んだ。


「香苗」


「……嫌だって言ったでしょう」


そう否定しながらも、香苗は俺の腕にぎゅっとしがみついた。小刻みに揺れる肩を正面から抱きしめ直し、絶対に離すものかと誓った。


次の週、俺は病院に婚姻届を持っていったが、見事に香苗に断られた。


「絶対に書かないから!」


そう言うと布団を被って隠れてしまう。

ちょうどご両親と鉢合わせたので、香苗さんと結婚させてくださいと頭を下げた。


香苗のご両親は戸惑い、香苗はその後、布団を被ったまま顔を見せてくれなかった。

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