049

一人チビチビ飲んでいると、カラランと扉の開く音が聞こえた。カツカツという足音がどんどん近くなり、隣に誰かが座る。


足音だけでわかってしまう。

日下さんが来てくれたんだ。


「お疲れ様です。来てくださってありがとうございます」


「何か用だった?」


日下さんはママに「いつもの」と頼むと、きちんと私の方を向いてくれる。

ママは空気を読んでか、オーダーだけ取って場を離れた。

私は膝の上でぐっと拳を握る。


「日下さん、先日はすみませんでした。私、奥様のこと何も知らずに無神経なこと言いました。本当にごめんなさい」


一息に言うと私は深々と頭を下げた。

まずは自分の非礼を謝りたかったのだ。


「……芽生」


「あの、それで、それを踏まえた上でですね、いろいろ考えたんですけど、やっぱり私は日下さんのことが気になっちゃうといいますか、なんていうか、好き……ですし、日下さんには笑ってほしいから。せっかく会社でも同じチームになったことですし、日下さんを笑わせたいと思います」


「……どうやって?」


「えと、それは、これから考えます」


「何、それ」


「と、とにかくですね、私は日下さんをもっと知りたいので、お友達からお願いします」


私は日下さんの前に手を差し出した。

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