027

「あの、失礼なことばかり言ってすみませんでした」


私は立ち上がって深々と頭を下げた。


「芽生」


名前を呼ばれると共に手を取られ、はっとなって顔をあげると日下さんと視線が絡み合う。甘く疼くような視線に心臓が跳ねた。


「俺が今何を思ってるかわかる?」


手をぎゅっと握られ、日下さんの親指が手の甲をゆっくりとなぞった。


「……わからないです。怒ってはいなさそうですけど」


ドキドキとだんだん胸が苦しくなってくる。

なぜ手を握られているのかわからないけれど、それを振りほどこうとは思わなかった。


日下さんの綺麗な口が小さく動いた。

店内のBGMに欠き消された声が届かなくて、日下さんの口の動きだけで読み取る。


”抱きたい”


そう分析して一気に体温が上昇した。


いやいやいや、違うでしょ。

そんな馬鹿な。

私の思考、落ち着いて。


一歩後退ろうとしたところ、握られた手がぐっと引っ張られ少し前のめりになった。日下さんとの距離が近くなったところで耳元に届く声。


「芽生を抱きたい」


とたんにぞわっと全身鳥肌が立ち、走馬灯のようにあの日の記憶がよみがえってくる。


まさか、そんな。

また抱いてもらえるの?

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