011

「日下、さん?」


恐る恐る名前を呼ぶと、日下さんはゆっくりと瞬きをして私を見る。その目は不敵に微笑み、落ち着いた照明と相まって魅惑的だった。


「俺と寝てみる?」


「……え?……えっ?!」


「俺のこと好きなんだよね?」


「好きです、けど。だってそんな……」


「俺も芽生に興味あるからさ」


頬に触れていた指が私の唇をそっと撫でた。まるでこの後キスをするかのような仕草に私の心臓は跳ね上がり、体の奥から熱が込み上げてくる。


「あらやだ、芽生ちゃん顔真っ赤よ。飲みすぎなんじゃない?」


いつの間にか戻ってきたママが私の顔を見て驚く。自分でも分かるくらい顔はほてり、ママのツッコミに何も反応できずその場で固まってしまった。


「……送るよ。ママ、彼女の分も俺が払うから」


日下さんが立ち上がって私の手を握った。

私はされるがまま、ただ日下さんの後を追うように歩を進める。


「芽生ちゃん、暁ちゃんに迷惑かけるんじゃないわよっ!」


ママの呆れた叱責を背に、日下さんと私は金木犀を後にした。

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