010
日下さんとの沈黙が居たたまれなくなって、私は取り繕うように早口で捲し立てた。
「だ、だって下手って言われてもどうすればいいんですか?」
テンパりすぎて恥じらいも何もない。
思ったことを口にしてしまい、だんだんと羞恥心がわき上がってきた。
「さあ、俺に聞かれてもわかんないけど」
日下さんは動じず、あっさりと流す。
「で、ですよねー」
ああ、日下さんに何言ってるんだろう私。
せっかくお話ができる機会だっていうのに、こんなの印象最悪だ。嫌われてしまったらどうしよう。
私の心配をよそに、日下さんは頬杖をつきながらゆったりと私を見る。
「……ねえ、西尾さん。下の名前何?」
「えっと……芽生です。芽生えるって書いて芽生」
わかりやすいようにテーブルに指で書いて見せる。
「芽生」
ふいに呼ばれて、テーブルから視線を日下さんへ移した。
日下さんの長い腕がすっと伸びて、指が頬に触れる。撫でられる感触に、全身ゾワゾワと鳥肌が立った。
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