009

「あの、いつもどうしてそんなに寂しそうなんですか?」


この機会に聞いてみてもいいかなと思い、私はおずおずと口にする。日下さんはじっと私を見据えた。


「……そんな風に見える?」


「見えます。会社ではニコニコしているけど、何か無理している感じ、というか」


日下さんは手元のグラスをじっと見つめると、一気に飲み干した。私はその様子を眺めながら、自分のグラスにも口をつける。ピーチフィズの甘い香りが鼻を抜けていく。


「……西尾さんは彼氏にフラれたの?」


「うえっ?!その話蒸し返します?」


突然の質問に私はグラスを落としそうになった。


「寂しくないの?」


「寂しい……のかな?あー、うーん、よく考えたら寂しい気持ちはあまりないかもです。それよりムカつくっていうか落ち込むっていうか」


「ムカつく?」


「エッチが下手でフラれたのよ」


「まっママっ!言わないでっ!」


なぜそこで私の恥をバラすのか。

ママは意地悪そうに笑いながら私の前へお水を置くと、別のお客さんの対応に行ってしまった。


爆弾だけ置いておかないでよ。

私はママの後ろ姿に向かって思い切り睨みつける。

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