第6話 翌日(2)
俺は、美女サミットの会場へと机を動かした。
まあ、実際はほんの2メートルといったところだ。
俺の前に、明るい茶髪のボブカット、アイドル級の美少女である希望(ノゾミ)、右となりに黒髪ロングのクールビューティ、生徒会副会長の高橋香苗がいて、斜め前にベリーショートヘアーの陸上少女、倉沢珠江が座っている。
皆、じっと俺のほうを見ている。
ついでに言えば、教室に残っている連中もみんな注目している。
(こいつ誰だっけ?)
(何で美女サミットに同席しているんだ?)
だいたい、疑問はその二つに集約されるんだろう。
前者は、はっきり言って失礼な質問ではある。俺はクラスメートだぞ。
ただ、今まで目立たないようにふるまっていたのと、あとは今日イメージチェンジした姿を見せる初日だ、ということくらいだ。
後者は…俺にもわからない。
なぜ、いきなりアイドル級の美少女である希望が、俺をかまい始めたのか。かまうどころか、いきなりHKHP(ヒロくんキス放題プロジェクト)なんてものを立ち上げて俺をプッシュしているのか。
だいたい、希望との接点も、小学校1年のとき以来、あまりない。
クラスが同じだったのは、その時だけだ。たぶん近所に住んでいるんだろうけど、家も知らない。
昨日、声をかけられるまで、同じクラスでも接点はほとんど無かったのだ。
とりあえず俺は机を揃え、席について。
希望が言う。
「香苗ちゃん、珠江ちゃん、一応紹介しておくね。三重野 晴(みえの はる)くん。」
「それは、クラスメートだから名前くらい知ってるわよね、珠江。」クールビューティ―がスポーツ少女に言う。
「え…う、うん。」珠江はちょっとうろたえつつ答えた。
「いや、別に覚えてなくてもいいんだが。もう慣れてる。」俺はちょっと自虐的に言った。
「今日はご一緒させていただいて嬉しいよ。三重野晴だ。高部さんとは、小学校1年で同じクラス。高橋さんとは、小学校2年で同じクラス。倉沢さんとは同じ中学だけど、同じクラスになるのは初めてだね。改めてよろしく。」
俺は無難に挨拶する。
「ま、実はなぜ俺がここに呼ばれたのか、わかっていない。高部さんが首謀者だから、理由を聞いてみたいね。」
俺はちょっと自虐的に続けた。
「別に、深い理由はないわ。たまには一緒に話をしてみたかっただけ。あと、ノゾミでいいよ。」
他の二人の顔色が、わずかに変わった。高部希望が、男子に「ノゾミ」などと呼ばせることはなかったのだから。
「え、いいの? 他の人の前では高部さん、て呼ぶんだよね。」俺は慌てて確認する。
明るい色の髪をなびかせながら希望が首を横に振る。
「ううん、いいのよ。ここでは内輪みたいなものだから。ちゃんと呼んでね。」
「わかったよ、ノゾミちゃん。」
他の二人の目が丸くなった。「え?」そんな表情である。
希望が言う。「いいのよ。幼馴染みたいなものなんだから。」
え?今度は内心、俺自身が驚いた。幼馴染じゃないぞ。少なくとも、俺にはそんな認識はない。
「いつから幼馴染になったんだ?」俺は一応突っ込む。
「みたいなものだ、って言ったでしょ。ヒロくんとは、小学校1年のとき、クラスメートだったじゃない。幼なじみみたいなものでしょ。」
それは絶対違うと思うが…。
「だったら。私のことも香苗ちゃんと呼んでちょうだい。」突然、場を切り裂くような声がした。もちろんそれは、クールビューティーの高橋香苗である。
「え?」俺は信じられなかった。なぜそんなことを言うんだ?
「私も、ヒロくんと二年生のとき同じクラスだったよね。だから幼馴染と言っても過言ではないわ。わかったわね、ヒロくん。」
彼女は俺に対して決めつけるように言う。
「いいわよね、ヒロくん。」クールビューティの名にふさわしい、冷たく決めつけるような声だ。
あの声で罵倒されたい、っていう男が沢山いるんだ。まあ、理解したくもないが。
「了解だ。香苗ちゃん。同じクラスだったことを覚えてくれているのはまあ嬉しいよ。トラウマじゃなければいいがな。」半分本気で俺は言った。
香苗の表情が、わずかに変わった。だが、平静を装う感じで香苗は言う。
。
「何のことかしら? よくわからないけど、まあいいわ。ヒロくんこそ、私を避けたりしないでね。」
いや、他の人と同じように接してますよ。目立たないようにしてるだけで。
「あのお…」おずおずと、倉沢珠江が口をはさむ。明るく快活なスポーツ少女は、意外に口下手で消極的な感じがする。
「私のことも、珠江ちゃんでお願いします。ヒ、ヒロくん。」
どうやら勇気を振り絞って言ったようだ。
え?さすがに、そこまで知り合いじゃあないと思うんだけど。
「他の二人は一応長い知り合いだからわかるけど、倉沢さんはほとんど初めてだよね?いいの?」
俺は尋ねる。
「だから、珠江ちゃんでお願いします。ヒロくんは私の恩人ですし。」
…まったく意味がわからない。恩人って、何だろう。彼女とのからみは、ほとんど黒歴史みたいなものだからなあ。
まあ、彼女が言うんだから、いいかな。
「わかったよ。これからヨロシクね、珠江ちゃん。」
「は、はい…よろしくお願いします、ヒロくん。」
倉沢珠江は真っ赤になって親雄向いた。
可愛い子は、こんな顔をしても絵になる。
まあ、だからといって俺はそれほど緊張してはいなかった。
やはり、妹の存在は大きい。
この三人は美女と言ってさしつかえないが、うちの笑美だって負けていない。俺は、毎日妹と仲良く暮らしている。だからこそ、女の子にそれほど緊張しない。たとえをの相手が学年トップ3の美少女たちだったとしても。
「じゃあ、そういうわけで、お弁当食べましょう。」
希望が言う。。
三人は、皆弁当箱を机の上に出している。
俺も鞄から弁当を出した。 可愛い花柄のナプキンに包まれている。
それを机の上にしいて、弁当のタッパーを開く。
ちょっと驚いた。白いご飯の上に、桜でんぶでハートが描かれているのだ。
希望がそれを見て言う。
「ヒロくん…それ、愛妻弁当?:
他の二人も興味しんしんという感じだ。
珠江ちゃんなんか、何やらぶつぶつ言っている。
よく聞こえないが、「え…戦う前から不戦敗?」とか聞こえたような気がする。
そういえば、週末には陸上の記録会があったんだっけ。どこかと対戦するのかな?
俺は平静に答える。
「いや、妹が作ってくれたんだ。 初めて作るから、気合が入っているんだと思うよ。」
「ヒロくん、あなたは妹と恋愛しているの?世の中の規範、ちゃんと身についている?」
何か勘違いしたように、生徒会副会長の高橋香苗が俺に冷たい声を掛ける。
「いや、やましいことは何もない。単に、可愛い妹だよ。年子で、うちの1年だよ。」
「もしかして、バド部のカナちゃんのこと?」
陸上少女の珠江ちゃんが尋ねる。
「うん、そうだよ。運動部つながりで付きあいあるのかな?」俺は聞いてみる。
「いちおう、顔と名前を知ってるくらいです。でも、ハルくんの妹さんとは思わなかった。あんな可愛い女の子が、いつもそばにいるんだ…。」
「そりゃあ、妹だからな。俺には口うるさいけど、優しいところもあって、可愛いよ。」
俺は素直な気持ちで言う。
「はい、もう食べましょうね。」希望が声をかける。
「「「「いただきます」」」」
四人でえ声を合わせて、弁当にとりかかった。
俺の弁当は、白米の上に桜でんぶでハートが描かれている。
タッパーは仕切られていて、その横にはミニトマト、ミニハンバーグと唐揚げが入っている。ついでにたくあんと黒豆がアクセントを付けるようにほんの少しずつ入っている。
なお、レタスがハンバーグと唐揚げの下に敷かれているので、野菜も十分にあると思う。
あらためて、妹に感謝だ。ちなみに、お茶の入った水筒もある。
アイドル風美少女の希望の弁当は、二つの小さいタッパーに分かれていた。一つにはサラダが詰まっている。もう一つには、申し訳程度のご飯と、唐揚げとウィンナーが二つずつ。
タッパー二つ足しても、俺の弁豪の半分くらいではないだろうか。
こんなもので足りるのかな? 美を保つためには努力なんだろうか。
うちの笑美なんか、よく食べてるけどな~。
一方、生徒会副会長の高橋香苗の弁当は、サンドイッチだった。
薄いパンを重ねて四つ切りにした感じだ。
中身はレタスとツナかな。
倉沢珠江の弁当は、俺の弁当よりは一回り小さいタッパーだった。ちゃんと白いご飯もたくさん入っている。その横にミニトマトにブロッコリー、かぼちゃなどががあり、あとはほぐしたチキンとアスパラベーコンが入っている。スポーツ少女らしく、しっかり栄養を採れるようになっているようだ。
三人とも、ペットボトルのお茶を持っている。
さて、みんなの弁当を一通り見回して、食べようとすると、突然希望が言う。
「ねえヒロくん、私、こんなに食べられないから、私の唐揚げとウィンナー、一つずつ食べてくれない?」
おお、お弁当のおすそ分けか。
「うん、ノゾミちゃん、ありがとう。遠慮なくいただくよ。」
普段はパンしか食べてないから、こういう時は沢山食べたいものだ。
希望が、自分のお箸をそのまま使い、唐揚げとウィンナーを一つずつ俺の弁当の蓋に乗せてくれる。
「まだ、お箸に口つけてないからね。」
どうでもいいことを付け加えてきた。
まあ、俺はどっちでも気にしない。妹とはいつも似たようなことをやっているからな。
すると、横からクールビューティの生徒会副会長の高橋香苗も言ってきた。
「ヒロくん、私のサンドイッチももらってくれる?」
おお、目先が変わってこれもいい。
「いただくよ。ありがとう、香苗ちゃん。」」
サンドイッチが、ティッシュペーパーに包まれて渡される。
今日は美女に囲まれて、お弁当まで分けてもらっていい日だな。
すると、スポーツ少女の珠江ちゃんまで、
「私のも…どうですか?」
おずおずと言ってきた。
「他の二人がくれたからって、別に気にしないでもいいよ。珠江ちゃんは、スタミナつけて放課後の練習に臨まないといけないんだからね。」
俺は彼女に気を遣った。
というか、珠江ちゃんが他の二人の真似をする必要なんか全くないんだから。
すると、珠江ちゃんは涙目になって、
「駄目…ですか?」と言ってきた。。
さすがにそこまで言われると、受け取らないわけにはいかない。
「もちろん、いただけるものなら、喜んでいただくよ。」
珠江ちゃんはぱっと笑顔になる。
うーむ。これは、女の子の必殺技、涙目からの笑顔だな。
うちの笑美もよくやるんだ。
まあ、別にかまわない。女の子は笑顔のほうがいいからな。
そして、珠江ちゃんのアスパラベーコンが、俺のタッパーの蓋に乗せられr田。
改めてみると、なんとも豪華なランチになったものだ。
思わず、素直な感想が出た。
「可愛い女の子たちに囲まれて、充実したランチ。なんかすごくラッキーだなあ。」
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ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
ランチはあと一回続きます。
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