第5話 翌日(1)
翌朝、俺は普段より10分早く起きて、ドライヤーで髪型を整えた。
ちなみに、夕食を食べ終わる頃に帰ってきた母親からも、大絶賛を受けた。
ただ、美容院代はもらえなかった。小遣いでやりくりしろ、バイトしてもいいから、ということだった。
まあ、帰宅部だし、考えてもいいかもな。
髪をセットしてから朝食へ。妹は、俺が髪型を整えるのを待っていた。
「待っていてくれて、何だか悪かったな。」
俺が言うと、
「食事作ってお弁当準備してたら時間がが過ぎたから大丈夫。
お弁当は、粗熱取ってるからもう少し待ってね。」
妹は笑顔で答えてくれた。
ちなみに、今朝も母親はまだ寝ている。今は七時半だ。
まあ、我々も、もう少し朝寝できる環境ではあるんだが、もう習慣になっている。
俺と妹の通う秀英高校は、じつは自宅から徒歩5分の距離にある。
いざとなれば昼飯を食いに戻れる環境だ。 妹はたまに昼休み、家に戻っているらしい。真偽のほどは知らないが。帰っても誰もいないし。
両親は、市内の同じ会社で働いている。なので、出勤は父親の車で一緒だ。
朝は9時半から、終わりは6時半ということになっている。ただ、実際の終わりはエンドレスのことも多い。
ま、融通はききやすいようで、二人で早引けすることもあるらしい。
そういうときのほうがむしろ帰りが遅いのはなぜだろう(笑)。
さすがにもう一人弟妹が増えることは無いとは思いたい。
朝食を食べ終わり、皿をキッチンへ運ぼうとすると、妹が言う。
「私がやるから、お兄ちゃんは学校行く準備してて。」
いつも皿をもっていったりするのは俺の役割なのに。
「お弁当の蓋が閉まるまでは、キッチン立ち入り禁止ね。」
そういうものなのか?
「お弁当は、開けるときまでお楽しみに。」
妹は言う。
とりあえず言葉に従い、再度洗面所で鏡を見る。そして、服にアイロンがかかっていることも確認する。準備は大丈夫そうだ。
ただ、皿洗いくらいはしないとな。
そろそろかと思い、ダイニングに戻ると、弁当は布に包まれてテーブルの上に置いてあった。
「皿洗いするぞ。」俺は声をかける。
「もう終わるから大丈夫。」妹は言うが、まだ拭いていないようだ。
俺は妹の隣で、洗った皿を拭き、食器棚に戻す。
食事を作るのはできないが、片付けくらいはできる。
並んでこんな作業をしていると、なんだか新婚家庭みたいだな~などとぼんやり思う。
ま、俺みたいにモテない男には彼女なんかなかなか出来ないだろうが、妹は引き手あまただろう。
せめて悪い男にはひっかからないでほしいものだ。
妹はもう少し用事があるということなので、俺は家を出た。
とはいえ、家の前の路地をちょっと進んで曲がると、もう学校は近い。
登校する連中の列が出来ている。
その列にそっと混じり、学校に到着。
上履きに履き替えるため靴箱を見ると、何やら封筒が入っていた。
HKHPと書いてある。
おいおい、ハルくんキス放題プロジェクトの頭文字だろ、あまり目だたせるなよ、と思いつつ封筒を開ける。
「これから毎日、バッジを胸につけること。あと、お昼ご飯一緒に食べようね、希望(はあと)」
ティッシュに包んであったものを取り出すと、それは青いイルカのピンバッジだった。どこかで見たことがあるような気もするが、思いだせない。
まあ、大した記憶ではなさそうなので、気にしないことにする。
バッジを胸につけて教室に入ると、すでに来ていた、前の席の白石真弓が、俺を見てあっけにとられた顔をし、そのまま固まった。妹と同じような反応だ。
気にせず席に着くと、ほどなく白石も再起動した。
「三重野くん、いったいどうしたの?」
失礼な質問をしてきた。
ちょっと腹が立ったので
「どうでもいいだろう、人の顔見ていきなり何失礼なこと言ってるんだ。お前には関係ないだろ?」厳しく言わないと、こいつはすぐに付きまとって絡んでくるのだ。
「だって…」白石は続けてごにょごにょ言おうとしたことを止めた。」
俺のところに、三大美女の一人、希望がやってきたからだ。
「ハルくん、おはよう。」彼女は気軽に俺に声をかけてきた。
クラスの連中がちょっとざわつく。
「あいつ、誰だっけ?」なんて声も聞こえてくる。
「おお、おはよう。高部さん。」一応、クラスの連中の前ではそう呼ぶことにした。
希望は俺の顔と髪の毛を見て、うんうんとうなずきながら上から下までじっくり観察してきた。バッジも確認したようだ。
「あ、あの…」俺もちょっと焦る。
「大丈夫だね。じゃあお昼に。」そういうと、彼女は席に戻った。
白石がまた何か絡んで来ようとしたので、俺は席を立った。トイレに行くことにしたのだ。
用を足して鏡を見る。 たしかに、今日の俺は、昨日までの俺とは別人のように見える。
俺はもともと目立たず、印象が薄いので、今の俺を見て、誰だかわからない連中も多いのかもしれない。
それはそれで残念なのかもしれないが、まあいいや。
トイレを出て、教室に戻るところで原中理恵と一緒になった。原中は、例の「みんなの妹」で、きのうのキスシーンの直後に俺と目が合った美人さんだ。
原中は俺のことにはまったく気づかないようだった。別のクラスの奴だとでも思ったのだろう。
一緒に教室に入ろうとすると、ぎょっとして俺を見た。
「え…」言葉が出ないようだった。
その時、「おう、おはよう」声を賭けてくるやつがいた。
イケメンの長江だ。キスシーンの片割れでもある。ただ、こいつは目撃者が俺だとは聞いていないはずだ。
「長江くん、おはよう。」彼女は満面の笑顔で、長江のほうを向く。横にいる俺のことなど、1ミリも気にしていない。
俺も気にせず、席についた。
「あれ、誰だ?」
「あんな奴、うちのクラスにいたか?」
「ほら、あいつだよ。えっと、ミソノだっけ、ミタだっけ…」
「ミヤノじゃなかったけ?」
三重野だよ。芸人コンビの売れないもう片方のギャグじゃないんだから、覚えておいてくれ。まあ、これも小学校1年のころからずっとなんだけどな。
四時間目が終わり、ランチの時間になった。
前の席の白石が話しかけてくる。
「ねえ、お昼一緒に食べない?なんで変わったのか聞きたいし。」
あいかわらずウザい。
「残念だが、先約があってな。」(無くても食べないけど。)
後半の言葉は心の中にとどめておく。変に周りから悪口を言われたくはないので、その辺は心得ているのだ。
「ハルくん、お昼はパンを買ってくるの?」希望がやってきて声をかけてくる。
「いや、今日は妹が作った弁当だよ。」俺は答える。
「じゃあ、机動かしてこっち来てね。」
希望は言う。
ランチに残っていたクラスメイトはどよめいた。
俺もちょっと驚いた。
ちなみに、白石真弓なんかは、あまりのことに金魚のように口をぱくぱくさせている。
なんと、希望だけでなく、黒髪ロングのクールビューティの生徒会副会長、高橋香苗と、ボーイッシュなスポーツ少女の倉沢珠江も一緒だったのだ。
俺は思い出した。
この三人は、中学が同じで、結構仲良しだ。まあ、俺も同じ中学ではあるんだが。
よく、ランチを三人で食べている。これは別名「美女ランチサミット」と呼ばれている。国際首脳会談かよ。むしろ、異種格闘技頂上決戦かもな。
彼女たちは、二年生女子四天王と呼ばれることもある。四天王のもう一人、「妹」の原中理恵はあまり参加していないようだ。中学が違うこともあるが、たぶん自分が四番手であることを自覚しているのだと思う。ちなみに、原中はすでに教室を出ている。どうせ、長江とよろしくやっているんじゃないかな。
すでに他の2人の了解もとっているのだろう。
三人で机をくっつけ、一人分のスペースが空いている。
俺は覚悟を決めて、机を動かした。
希望だけでなく、高橋香苗も、倉沢珠江も、俺のことをじっと見ている。
高橋香苗はさておき、倉沢は俺のことなんか覚えてないだろうに。中学のときに一度話したことがあるだけで、同じクラスになるのも今回が初めてだ。もう二学期なのに、いままでクラスの中で話したことすらない。
高橋にしても、クラスメイトだったのは小学校二年のときだから、希望とたいして変わらないくらいお久しぶりだ。まあ、希望と比べると、ブランクが1年も短い、といえばそれまでだが。
高橋香苗に覚えられていないならそれでいい。覚えているとすると、むしろ恨まれているかもしれない。まあ、今更どうにもならないんだが。
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ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
二日目の出来事はまだ続きます。
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とくに星はテンション爆上げです。
まるでトンカツDJのように…
よく
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