ぼっちの俺に学校中の美女がキスを求めてくる件  もはやキスソムリエを名乗ってもいいですか?

愛田 猛

第1話


「晴(はる)、今日の帰り、みんなでカラオケ行くんだが、お前も行かないか?」

声をかけてきたのは、最近よく話すようになった高円寺 翔だ。結構なお調子者だが、性格はいい。ちょっと面長で、髪型にいつも気を遣っているタイプだ。


「悪いな、今日はちょっと野暮用があってな。また誘ってくれよ。」俺は軽く答える。こんなやりとりも悪くないなあ。


「おお、そうか。残念だな。」と、全然残念そうな顔をしないで高円寺が言う。まあ、社交辞令に近いのかもしれないが、声をかけるくらいには気にしてくれているってわけだ。ぼっちだった頃とくらべたら、格段の進歩だ


「ねえ、三重野くん、野暮用ってなに?」前の席に座っている女子の白石真弓がちょっかいをかけてくる。この子も、本来はたぶん可愛いんだろう。たぶん。


というのは、このクラスには、学年でも有名なメンバーが4人もいて、どうあがいても5位以下にしかならないからだ。二年生四天王、とか二年生三大美女プラス妹、とか言われる四人だ。なぜか、今年はうちのクラスに美女が四人、イケメンが二人集まっているのだ。



俺はウザい白石を排除するうことにした。

「野暮用は野暮用だよ。人がトイレに籠ろうかってときに追及するもんじゃないぞ。誰だって言いたくないことはあるだろう。」


俺はそういって白石を突き放す。白石は真っ赤になって「…ごめん」と小さい声で下を向いてつぶやいた。


「さて、行くかな。」俺は鞄を掴んで立ち上がる。ふと気づくと、二年生三大美女の一人、高部希望(のぞみ)が意味ありげな視線を向けてきた。


俺は、それに気づかないふりをして教室を出る。まあ、俺が気づいていることを彼女は知っているだろうけど。



俺はトイレに向かった。

だが、俺がやったのは、個室に籠ることじゃない。


髪の毛をチェックし、歯を磨く。ついでに鼻毛も確認してトイレを出る。

歩きながらブレスケアを口にするのも忘れない。


やってきたのは校舎裏の空地だ。

ここにも何回来ただろう。定番の場所になっている。


そこ行ってみると、そわそわした小柄な女子が立っていた。周りを見てもとりあえず誰もいない。一人でやってきたようだ。


俺は彼女に近づいて、声をかける。

「俺に用事があるのは、君かな?」


彼女は俺の顔と、胸元を見て黙ってうなずく。

胸のリボンが緑色なので、同じ二年生だとわかる。ちなみに、わが秀英学園では、一年生は赤リボン、二年生は緑リボン、そして三年生は紺リボンだ。


この子は見たことがある。たぶん隣のクラスかなんかだろう。まあ、どうでもいいんだが。


「あの、私、二年C組の小柳幸美といいます…」

彼女が口にしようとしたところで、俺は手を挙げてそれを止めた。


「その前に確認しよう。話は聞く。ただし簡潔にね。効果は保証しない。僕とのことはすべてノーカン。秘密は守る。これで君は大丈夫かな?」


「はい、聞いている通りです。それでお願いします。」彼女はまたうなずいた。

ちょっと緊張しているようだ。


「じゃあ、始めようか…。」

それから5分後、彼女の唇は僕の唇に押し当てられていた。

それほど強くない、控え目なキス。ただ、唇はしっかり僕の唇をとらえている。ちょっぴりリップグロスの薬くさい味とミントの味がする。舌は入れてこないし、体も預けて来ない。


これはまあ初心者上級、というところかな。キス経験者ではあるものの、あまり慣れてはいない、といったところかな。


キスの相手が二桁を越えて来ると、キスのうまい下手がわかるようになってきた。いわばキス・ソムリエとでも言えるかな。まあ、そんなこと口に出したら、男たちか袋叩きにされるだろう。いや、去年の俺にさえ、刺されても不思議はない。まあ、そんな称号要らないけどね。


俺は彼女から離れた。彼女は丁寧に礼をして、「ありがとうございました。」という。

「じゃあな。今日のことは忘れるんだな。」俺はそう告げると、踵を返す。


昔の俺なら余韻に浸っているところだろうけど、今日はそうもいかない。次が待っているのだ。ダブルヘッダーというわけだ。まあ、相手が違うから、変則ダブルヘッダーかな。 そんなことはどうでもいいけど。


俺は歩きながらティッシュで口をぬぐい、再度ブレスケアを口にする。次の行先は屋上だ。ここもおなじみの場所、というか俺の人生を変えた事件現場でもある。今日はそこに、1年生の女の子が待っているはずだ。


人生、何が起こるかわからないな…俺は、あの日のことを追想しながら、次の目的地、屋上に足を進めていった。


ーーー

新作です。よろしくお願いします。



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