人工人間は人類のために必要です
ちびまるフォイ
意思のない人間
「今日からこの工場に新しい人が入りました」
「佐藤です、みなさんよろしくお願いします」
つなぎを着た従業員たちは拍手で迎えてくれた。
さっそく工場のラインに配属されると上流から「人間のもと」が流れてきた。
「……なんか紙粘土みたいですね」
「最初はみんな同じことを言うよな。さあ早く形を整えるんだ」
コンベアに流れる人間のもとを整えて人の形にしていく。
最初こそ手間取ったもののなれると、いつも同じ作業なので楽だ。
「本日の業務はここまでです。みなさんお疲れさまでした」
工場長からのお達しが出て工場の電気が消える。
ロッカーで着替えをしていると横にいる先輩が声をかけてきた。
「今日の仕事はどうだった?」
「まだまだわからないこともありますが頑張っていけそうです」
「そうか。それはよかった」
「ところで先輩。この人工人間たちはいったい何に使われるんですか?」
「主に病院だ。新薬のテストや、新しい外科手術のテストさ。
治験のバイトではリスクが大きすぎるし、練習で生きた人間の体を開くわけにいかないからな」
「構造上は、な。でも意思もないししゃべることもできない。
人間の構造を完璧に模したただの人形だ。そう思わないとやっていけない」
「は、はぁ……」
工場を出ると友達から飲みの誘いの連絡が来ていた。
居酒屋にいくとすでにベロンベロンの友達がまっていた。
「来たかーー。遅いぞぉ」
「今日は仕事の初日だったから帰りじたくに時間かかったんだよ」
「人間工場だっけ? なぁ、そこってやっぱり女の人間も作ってるんだよな」
「え? まあ。女性の病気を治療する薬などの治験に使われるしな」
「頼む! そのうち1体を俺に持ってきてくれないか!!」
「はぁ!? なんで!?」
「なんでって……意思もなく、文句もいわない。でも体はあるんだろ。最高じゃないか!」
「お前ってやつは……」
「絶対に秘密にするからさ。どうせ大量に作れるんだろ。
それに報酬だってちゃんと用意する。悪い話じゃないだろう?」
「……うーーん」
金に困っているのはたしかだった。
毎日大量に人工人間を作っているのだから1体なくなっても大丈夫だろうと思った。
夜中の工場に忍び込むと、こっそり女の人工人間を持ち去って友達へ渡した。
まとまったお金をもらってクセになりそうだと思ったが、しっかり自分を抑えた。
翌日のこと。
いきなり工場長が全員を呼び出して朝礼が行われた。
「みなさん、昨日誰かがこの工場から人工人間を1体持ち去ったようです」
一気に血の気が引いていくのがわかった。
「誰かはまだわかっていませんが、今日改めて数え直してまだ一致しなければ
ひとりひとり昨日なにをしていたかの聴取を行います」
こんなに大ごとになるとは思わなかった。
全員に事情聴取されたら確実に自分のボロが出ることは明白だった。
「おい新人」
「は、はいっ!」
「なにぼーっとしているんだ。はやくこの人工人間をコンテナに積んでくれ」
「あ、は、はい」
人工人間を台車に乗せてコンテナまで運ぶ。
コンテナの前には空港の金属探知の入り口に似た人工人間カウンタがあり、出荷される人工人間が数えられる。
「そ、そうだ……、このカウンタを1個多くすればごまかせるかもしれない」
実は多くカウントされていたとなったら機械トラブルとなって自分の罪もバレないかもしれない。
カウンタを調整できないかとあれこれいじってみたがダメだった。
生身の人間が通過しなければカウンタは増えないらしい。
ひらめいたのは人工人間も、人間も体の構造にはなんら差がないということ。
「これ、俺が通れば……1体ぶん多くカウントされるんじゃないか」
思い切って自分も入り口を通過すると、予想通りカウンタが1つ増えた。
これで工場の人工人間が1体減っていた事実もごまかせる。
と、思ったときコンテナの入り口がしまって動き出した。
「うそだろ!? ちょっ! おおーーい! 誰か! ここを開けてくれーー!」
自分も人工人間のひとりとして数えられたまま出荷用コンテナが運ばれてしまった。
こうなったらコンテナが開けられたタイミングで事情を話すしかない。
人工人間とはちがってしゃべることができるし、タクシーの一つでも呼んでくれるだろう。
人工人間たちにもみくちゃにされながらコンテナの中で過ごした。
ついに移動が終わると、コンテナの口が開いた。
「ああ、やっと外に出られる……!」
コンテナの外に出るとそこは病院ではなく、人の気配がしない山の奥地だった。
「なんでこんなところに……? 人工人間は治験や手術のために使われるはずじゃないのか?」
他の人工人間たちもぞろぞろとコンテナの外に出てきた。
遠くから銃声が聞こえた。
近くに立っていた人工人間の頭が吹き飛んだ。
「え!? ええ!? なになになに!?」
慌てて伏せたがなおも銃声は人工人間を狙っている。
いくつかは明らかに自分を狙って撃っている。
銃声の源には人間がいることは確実なので事情を聞くために走った。
そこには狩人の服を来た男がライフルを構えていた。
「撃たないで撃たないでください!! 俺は生きた人間です! どうしてこんなことするんですか!?」
すると男は笑顔で銃口を向けた。
「いい顔をする人工人間だなぁ。人間ハンティングのしがいがあるよ」
その後は必死に撃たれまいと山をジグザグに逃げ回った。
死にものぐるいで山を降りて、通りかかる車を体で止めてなんとか家に帰った。
その翌日、工場へ行くとふたたび朝礼が行われた。
「みなさん、昨日はうたがってすみませんでした。
人間カウンタを確かめたところ、数字があっていました。お騒がせしました」
従業員はホッとしていた。俺もバレなくてよかったと安心した。
「そして、もうひとつお知らせがあります。
人工人間を利用している病院からの依頼で、人工人間がアップグレードされます」
「アップグレード……?」
「なんでも、人工人間に感情をつけてしゃべれるようにしてほしいとのことです。
今後は心の病などの治療のテストにも人工人間を使うために、意思表示ができるようにとのことです」
従業員たちは「そうなんだ」と納得していた。
俺の脳裏には泣きながら逃げる自分を楽しげに撃ちまくる人間の顔が思い浮かんだ。
「……工場長、人工人間の取引先って本当に病院なんですよね?」
「当然さ。なんでそんな当たり前のことを聞くんだ?」
俺はそれきり人工人間の本当の利用先を勘ぐるのをやめた。
人工人間は人類のために必要です ちびまるフォイ @firestorage
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