第1話 第1章

2年前の3月1日。

私、キム・アリンは、このソヨン高校へ入学した。

ソヨン高は私の父が昔通っていた高校で、韓国国内でも名の知れる名門校だ。

私がなぜそんな名門校に入学することになったのかというと、日本の東京大学に通いたいからだ。

そのために、ソヨン高では常に学年トップをキープし、生徒会に入り、授業を真面目に受け、たくさん発言をする。

そんな、"完璧な生徒"にならなくてはいけなかった。

しかし、そんな儚い私の高校生活への希望はすぐに打ち砕かれてしまった。


ーそう、あの"悪魔"と出会ってしまったことによって。



先生「はい。今日の特別クラスは終了です。今日は夜間学習がないから、部活動が終わったら、すぐ帰ってくださいねー。」

生徒「はーーーーーーーーーーーい」


生徒たちはいつも気だるい返事をする。

でも、私は違う。先生の目を見てきちんと頭を下げる。そうすると、先生は私を特別に扱うようになった。成績が上昇するのは嬉しいのだが、これが少し面倒なのである。


先生「アリンさん、みんなが提出したレポート、放課後までに職員室に持ってきて貰えないかしら?」

ーまたか。面倒だなあ…

私は小さくため息をついた。


私「はい」

言葉をなるべく短く切って、先生に面倒くさいという負のオーラを感じ取らせないようにした。先生は意外と鋭いのだ。それに追加して、鏡で研究した"先生に好かれそうな笑顔"

を作ってみせた。そうすると、先生は安心した表情を見せ、教室から出ていった。

ー単純だ。学校の全てが、何においても、淡々と過ぎ去っていくようで、少し寂しい。

と、私は立ち上がり、山積みになったレポートに手を伸ばした。

すると、頭上から「手伝うよ」という少し高めで可愛らしい声が聞こえた。私が思わず顔を上げると、子犬のように甘い笑顔をした男子がいた。高身長てまフォルムがよく、どちらかといえばイケメンの部類に入るはずなのになんだか合わないななどと考えていると、

「これ、名前順に並べなくちゃいけないんだよね?いつもこんなことやっているの?大丈夫?疲れない?」

質問攻めの上にキラキラした目で見つめてくるから、私は、目線をどこにすればいいのか分からない。まず、父親や先生以外の異性と絡む機会がなかった(韓国では殆どの学校が男子校女子校に分かれている。アリンの通うソヨン高では実験的に共学が導入された。)

私には、同年代の男子とどう話したらいいのかや、何を考えているのか理解できなかった。

私が脳内会議をしているとき、彼はもうレポートの整理を終えていた。5分も経っていないのにどうしたのだろう。

ーそうだ、お礼、お礼を言わなくては

私「あ、ありがとう」

そこまで言って、私はまだこのクラスメイトの名前を知らないことに気付いた。

私「あ、あのっ.....///」

これまでの人生、生まれてこの方人に名前を聞くのは初めてだった。

「ーテミン。イム・テミン。名前を聞きたかったんでしょ?」

またキラキラした目を向ける。顔から火が出るほど恥ずかしかった。

私はこんな、話したこともないような男子に、思考を読み取られるほど単純ではないはずだ。

ーそれなのに、どうしてこの男は私の心を見透かすのだろう。




見られたくない。私を、私に深入りしないでほしい。

そんな思いで、私はきれいに積まれたレポートを無造作に掴んで、小走りで教室から出ていった。



ーあの、子犬のような顔をした、美しい少年を残して。



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歪んだ恋 @salam

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