第一章 夢のような現実

ゲームだけが生きがいの少年の日常

「あ! 次ブレス3発連続でくるから横から回り込んで」


 全神経をコントローラーに集中。ドラゴンの動きは何ひとつ見逃さない。

 浦島大和(うらしま やまと)の眼球がモニターを凝視する。


「わっ。マジで当たった。わりい。助かった大和」


 大和の指示通り、隣で同じくコントローラーをせわしく操作する信楽(しがらき)。

大和のおかげでなんなくベイオウルフという大型ドラゴンの懐に潜り込むと、長剣を深々と額に突き刺した。


「よし、そのまま動き止めてて。俺が止めさす」


 大和が操作するキャラクターがバトルアックスを担いで正面から突っ込む。

 ベイオウルフは怯んでなかった。信楽のキャラの攻撃を受けたまま、頸部から迸る血液も意に介さずまた大きな口を開けた。


「やべえって大和。これ喰らったら即死だぞ。避けろ」


 ビーム状の光線を乱射しまくるベイオウルフ最大の必殺技。


 全てを避けるのは不可能。危機を察した信楽は早々に全速力で距離を取る。


「え? なんで?」


 ビームは……  こなかった。


「なんでって。そりゃあ、お前。え? た、倒したんか?」


 討伐完了の文字がモニターにデカデカと映っていた。大和により既にベイオウルフは討伐されていたのだ。


「あんなデカい予備動作、見逃すヤツがいるかってのな。やりい。レアアイテムげっと~」

 

 【幻獣戦記】

大和の一人暮らしのアパートで、信楽と興じていたゲームの名前である。

 モンスター、幻獣、ドラゴンなど色んな神話をごちゃ混ぜにした世界観で繰り広げられる箱庭ゲーム。


その中できることはあまりにも多岐に渡り、ギルドに登録してモンスター討伐してお金を稼ぐのも良し、錬金術でレアなアイテムを精製するのも良し。

珍しい植物を育てたり、色とりどりの花の楽園を作るも良し。かなりの作り込みで、シームレスに展開するあまりにも広大なマップ。ハード展開も充実しており、かなりの製作費を費やしたであろうにその割にソフトは安い。今最もプレイ人口が多いと言われるゲーム、それが幻獣戦記である。


 その中でも大和と親友の信楽が夢中になっているのはハンターギルドという所に登録して行われる化け物ハント。

倒した数やレベルの高いモンスターを討伐することで加算されていくポイント制度があり、上位ランカーが公表されているのだが、入れ替わりが激しく1カ月と同じ名前が連ねることはない。


 その中で、大和は現在ついにNO.5に名を連ねている。ガチガチのガチ勢なのである。


 デカい予備動作と大和が言ってはいるが、実際

『予備動作シビア過ぎでバグレベル』

『ベイオウルフビームという名の即死回避不可避攻撃マジ無理ゲー』

『弱体化はよ』

と非難の嵐であった攻撃である。

 おかしいのは大和の方であることは自明である。


「やっぱ大和のゲームセンスはずば抜けてるわ」


「なになに。伊達に今までの人生部活や勉強分ゲームに費やしてきた訳ではないのですよ信楽君。これは単(ひとえ)に努力の賜物というヤツなのです」


 大和は勝手に勝ち誇っている。


「……でも、青春だけは犠牲にしたくないけどな」


「信楽? 今、なんと?」

 大和の表情が一変、凍りつく。


「ゲームは所詮、ゲーム。ゲームで活躍したところで現実世界にはなんも還元しない。これを割り切っているのか、どうか。これが一番大切だ」


「なんなんだよ。やめろよ。急に死にたくなるような現実突き付けんじゃねえよ」


 急に狼狽える現実世界ルーキー。彼の青春、それは触れてはいけない扉だったようだ。


「なら聞くけどよ。おめえ、女の子と手繋いだことあんのか?」


「…………」


「女の子と二人きりでデートしたことあんのかよ?」


「…………」


 やめてあげよう。もう彼のライフはゼロだ。

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