第2話 シリウス探査
≪≦5aca527328e05fcf9991e942cb909805.jpg|C≧≫
アルフレッドとマクシミリアンは、ブリーフィングルームのテーブルへと移動し、その途中でマクシミリアンは船内の奥にあるバックヤードに向かうと、お気に入りのを電子ヴァイオリンを大事そうに持ってきた。
電子ヴァイオリンのケースを開け、優しく手に取り、マクシミリアンが軽やかに演奏を披露すると、シリウス探査隊のメンバーがブリーフィングルームに集まってきた。
メンバー達は一時、ヴァイオリンから奏でられる穏やかな演奏を楽しみ、船内が和やかな雰囲気に包まれると、マクシミリアンは美しいロングトーンを響かせ、その音色が余韻と共に船内に消えてゆく。
余韻が消え、一息つくと良い頃合いでマクシミリアンがアルフレッドに声を掛けた。
「それで、今回のアプローチはどうする」
「そうだなマックス。ありがとう」
アルフレッドがマクシミリアンに礼を言うと、メンバーが拍手をし、マクシミリアンがそれに応える。
そして少しの静寂が過ぎ、アルフレッドの頭部に光るグレアリング・アイが輝き出すと、それを見たメンバー全員が体をテーブルに向け、アルフレッドは準備が整ったのを確認し、そして、ゆっくりと話を始めた。
「これまでは初期調査として、シリウス星系の観測をする事が目的だったが、そろそろ次のフェーズ、詳細探査に移行しようと考えている」
「これまで分かっている事は、この惑星系は三つの惑星系を持つ三兄弟で、シリウスAを中心に、シリウスB、ブラックホール、仮にそれをシリウスCとするが、そのBとCが、Aの周りをクロスで公転している」
「ただ、シリウスCがブラックホールに変化したプロセスがいまだに不明だ」
「それを解明しようと、A、Bそれぞれの中心にある恒星の組成を調べたが、分かっている事は、恒星シリウスの内部はハイパー・ダイアモンドの内部コアを持ち、ヘリウム8とネオンのガス帯を持っている事だけだ」
二人の話を聞いたエレンが何かに気が付き、アルフレッドに顔を向ける。
「ネオンと言えば、この惑星系はネオンを高濃度で含む惑星が多いわ」
「それぞれの惑星系に1から3個ほど、恒星からの距離もほぼ同じくらい」
「何かブラックホールの誕生に関係しているのかもな」
イエーガーがエレンの顔を見ながら応える。
「とりあえず、シリウスA、B、それぞれのネオンが多い惑星の探査をすれば、シリウスCが黒い渦に変化した何かに近付けるかもな」
ヴィッカリー博士が興味深そうにつぶやいた。
「よし、俺とトーマス、ヴィッカリー博士がシリウスAとB、二つの恒星を調べる」
「マクシミリアンとエレン、サンダース、イエーガーはそのネオンが多い惑星を調べてくれ」
シリウス探査隊は、探査目標を定め、活動を開始する事を決めた。
アルフレッドの恒星探査チームは船内から恒星を観測、調査し、マクシミリアンの惑星探査チームは2班に分かれ、マクシミリアンとサンダースのシリウスA班、エレンとイェーガーのシリウスB班に分かれ、小型探査機でそれぞれの惑星系に向かって行った。
∫
「アルフレッド、ちょっと良いか」
探査船に残ったトーマスが、隣で作業をしているアルフレッドを呼んだ。
「どうしたトーマス」
「初期調査である程度は分かっていたんだが、コアの形がやっぱり異常だ」
「コアに複数の突起が生成されている」
「結晶構造か」
「わからんな、自然物とも人工的な物とも言える」
「ヴィッカリー博士はどう思います」
「今の段階では何とも言えないが、興味深いのがAとBのコアが質量も形状も同じ事を考えると、やはりこの二つの恒星は何かしらの関係性がありそうだ」…
その頃、惑星探査に向かったエレンのシリウスB班でも動きがあった。
エレンとイェーガーは、探査船SI-N3から約2憶万キロ離れたネオンの含有量が高い惑星の陸地に着陸していた。
この惑星は複数の場所から、波長の長い
ゴォォ…
ピ ピ ピ ピ…
「…どうも信じられん」
「液体ネオンが一つの場所に集中しているんだ。なんて言うか砲弾型の塔と言うべきか」
口元に手を当て、モニタリングに表示されるレポートを見ながら、イェーガーがつぶやいた。
「フラクタルの集合体ね、ヒマワリの種が集まって自然の造形を成しているのと同じで、これも砲弾型の形状が集まって、上空に向かって全体の形状を生成しているんだわ」
エレンは、そのイェーガーが座る椅子に手を置き、レポートを見ながら話した。
「自然に出来たものなのか」
「まだ分からないわ、フラクタル構造は核としては最高の強度を持つ形状だし、誰しもが使いたくなる形状よ」
「ただ、これが何なのか…、 採取して詳細を調べてみる?」
「採取はアルフレッドの判断を待ってからにしよう」
「とりあえず近くに行ってみるか」
二人は離し終えると探査機から降り、砂に埋まった砲弾型の塔へと向かって行った。
ゴォォォ… ォ ォ ン …
硬い岩肌の上に、パウダースノーのようなきめ細かい砂が風に舞い、絶え間なく吹く風が、岩と砂に当たりながら、低音で響く、何か物悲しげにも聞こえる音を奏でている。
―ザッツ
大きな
…
「… う 美しい… 」
エレンとイェーガーの目の前には、深い鉛色に輝く、人の大きさ程の塊がいくつも連なり、それらが空高く積まれ、その整然と積まれた様相は、まるで巨大な要塞の様であった。
ゴォォ…
ピ ピ ピ ピ…
「エレン、船内からだと測定できなかったが、なにか微細で複雑な
「データベースにはありそう」
「分からないな… ヘルメスに詳細を解析してもらうか」
モニタリングの表示に集中し、解析作業を進めるイェーガー。
その横を何かに引かれる様に、鉛色の塊に近付くエレン…
「そうね…」
エレンがゆっくりと手を上げ
液体ネオンの表面に
ふれた瞬間
―――
力なく崩れる様に、エレンはその場に倒れ、意識を失ってしまった。
「エレン!」
ゴォォ…
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