裏切り者ノワール・ディスタの心境
仲仁へび(旧:離久)
第1話
ノワール・ディスタ。
それが今の俺の名前だが、以前はもっと長ったらしい名前だった。
国の中で、唯一許された者に与えられる言葉を名前に入れた俺は、長ったらしすぎて何度自己紹介で舌を噛みそうになった事か。
だが、それはもう昔の事。
両親が死んだあとは、陰謀から妹のミスティアを守るために、俺達は正体を隠して暮らす事になった。
けれど、どんなに慎ましく生活していても、どこからか情報が洩れる。
俺とミスティアは定期的に誰かしらから狙われていた。
国の運命や王位継承権など、微塵も興味がないというのに。
学園生活を送る中、俺は変な女と出会った。
後から知った事だが、エルン・クラリネッタとかいう名前の人間だ。
無理すると吐血するとか、妙な体質をしている。
そいつは、ある日から遠巻きに俺を眺め始めた。
特に嬉しくはしくはない。
が、俺は女性からうわついた感情を向けられるような容姿をしているらしい。
だから、そうやって女どもが遠くから眺めているのは、珍しい事ではなかった。
問題なのは、あの女がミスティアに近づき始めたことだ。
妹の職場ローズローズに顔をだして、話しかけているらしい。
これまでに様々な人間に狙われてきた俺は、当然その女の事を警戒した。
善人そうな顔をして近づいきて、害を与えてきた奴だって大勢いた。
俺にとって、ミスティアは残された唯一の家族。大事な妹だ。
万が一の事があってはならない。
だから俺は、その女。エルン・クラリネッタにクギを刺した。
ミスティアに近づくな。
たとえ陰謀に関係なくやっている行為でも、妹に近づいているのは不快だった。
忠告を与えた俺は、しばらく様子を見て、女が出過ぎたマネをするなら、暴力に訴える事も考えようと決めた。
しかし、そう時間が経たないうちに事件が起きた。
ミスティアがいなくなった。
ローズローズにも来ていないらしい。
俺はあの女の関与を疑いながら町中を探し回った。
しかし、ミスティアはほどなくして見つかった。
胸をなでおろしたが、そんな俺に妹が言ってきた。
エルン・クラリネッタを助けてほしい。と
彼女がミスティアを助けたらしい。
だが、正直気が乗らなかった。
一度助けたくらいで、一度恩を着せたくらいで、信じるわけがない。
たった一度の機会で、その人間が善人か悪人かなど、分かるわけがないからだ。
けれど、ミスティアは引かなかった。
エルン・クラリネッタは悪い人間ではないという。
妹が、こうも俺に強く意見してくることは珍しい。
だから、俺はどうすべきか迷った。
そこに、知り合いのウルドがやってきた。
そいつなら、一定の信頼をおいている。
だから、ミスティアを預けることにした。
ほどなくして、廃墟にたどり着く。
子供の遊び道具である草が、何か喋っていた。
あの女の声で。
これで、どうやら妹を助けたらしい。
伝言を伝えるだけの草を利用した機転は良かったが、中身がお粗末。
恐ろしいほどの棒読みだった。
しかしそれにつられた誘拐犯たちは、逆に考えればその程度の演技で釣れる雑魚だと分かった。
もっと恐ろしい者達は、こんな子供だましの作戦で人質を逃がすなんて間抜けはしない。
案の定、助けに向かってみれば全員雑魚だった。
あの女が吐血していたのは驚いたが、特にすぐどうこうなるわけではないらしい。
その場にかけつけてきた、人間に後処理をまかせて、俺は去った。
途中であの女が余計な事を言ったときはイライラしたが、妹の恩人だからかろうじて我慢した。
後日、吐血女にわびの品を持っていったら、喜ばれた。
ただの阿保なのか、それとも演技にたけた敵なのか。
少し分からなくなってきた。
ミスティアは俺の事を心配している。
もっと多くの人と関わった方が良いと。
けれど俺は他の人間にまで、気を割いている余裕はないのだ。
できればあの吐血女とは、あまり関わりたくなかった。
今後とも、出来る限り関わるつもりはない。
裏切り者ノワール・ディスタの心境 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます