第7話 ノワール様からのお礼



 学園 中庭


 それから数日後。


 中庭に訪れた私は、手頃な石に腰かけてお弁当を食べていた。


 ノワール様の姿はない。


 先日の一件で警戒されてしまっただろうか。


 残念だ。

 彼の姿を遠くから見る事が楽しみだったというのに。


 日々の彩りが消えて落ち込む私だったが、ふいに人の気配。

 誰かが近づいてくる気配。


 無音ではない。

 今回は、草を踏みしめる足音がした。


 音がする方へ視線を向けると、そこにはノワール様がいた。


 こちらに近づいてくる彼は何かを手にしている。


 目の前に立った彼は、ぞんざいな手つきで持っていた紙袋を渡した。


「ノワール様?」

「受け取れ。ミスティアを助けてもらった礼だ」

「え? ……あ、ありがとうございます」


 まさか、礼を言われると思っていなかったので、つい相手をまじまじと見つけてしまった。

 すると、うっとおしそうに顔をそむけられる。


「だが、これで懐柔できたと思うなよ。お前は怪しい、これからも見張らせてもらうからな」


 ノワール様は苦々しげな表情でそれだけを言って、この場から去ってしまった。


 ゲームプレイ中、起こると思っていなかったイベントが起きてしまったような、そんな心境でしばらくぼうっとしていた私は、ノワール様の姿が完全に見えなくなってから我に返る。


 渡された紙袋を、丁寧にあけてみた。


 すると中には、花の苗が一つ。


 ロクな知識もない私には、苗と雑草に見分けもつかないため、それが本当に花の苗なのか分からない。


 もしかしたら、ただイジワルされただけなのかもしれないが……。


「ありがとうございます」


 それなりに頑張ったのだから、少しくらいは夢を見ても良いだろう。


 私は自分の部屋のどこにそれを飾ろうか、少し思案した。


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