第12話「勇者さんと二人の冒険者」

「どうしましょう。この先の部屋にドクロマークが書いてあります。強い魔物がいるってことですよね?」




 ユキさんが地図を指し示した。恐らくは中ボス的な、強敵がいるということだろう。


相変わらずユキさんのレベルは……恐らくあまり上がっていないだろう。僕の方も無病息災の力はわかったけど、戦闘の方は我ながらあまり期待できないのだ。




 そこへ、二人組の冒険者が走って来た。例のこの先の部屋から逃げて来たらしい。




「すまない、君達。毒消しを持っていないか……。毒が……」




 苦しそうな表情をする剣士のお兄さんと相棒らしきトレジャーハンターのお姉さん。




「ワイトさん!」




 ユキさんの声に僕も頷いた。確か毒消しは念のため予備を沢山持っていたのだ。僕はそれを背嚢から取り出して渡す。




「ありがとうね。……ああ、あああああ!」




 お姉さんが呻き出す。よっぽど強い毒なのだろうか? 僕は心配になって、冷や汗をかいた。




「痛みますか? 薬草もありますよ」




 僕の問いかけにお姉さんは首を横に振った。




「違うの……これは。あああああ、かゆい! かゆい、かゆすぎる!」




 見れば剣士のお兄さんの額と、お姉さんの二の腕に赤い腫れが見られた。僕はユキさんと手分けして、毒消しで治療してあげた。




「ああ、助かった……。君達ありがとう」




 一息ついたのか、お兄さんとお姉さんはすっかり放心状態だった。




「一体何があったのですか?」




 ユキさんの問いにお姉さんは答えてくれた。




「この先の部屋、未開封の宝箱があるの。だけどそれを守る魔物がいてね。そいつの毒にやられたって訳。あんな魔物がいるから他の連中も手を出せないみたい」




 二人はお礼をしたいと申し出たが僕もユキさんもそれを断った。お礼目当てで助けた訳じゃないし、情報をくれただけでも感謝していたからだ。




「あたしたち、フェイとウォーレンって言うの。何かあったら、今度は助けさせてもらうからね」




 そう言うと二人は立ち去った。颯爽とした格好良い二人だった。その二人ですらキャラ崩壊させる程の、かゆみを引き起こす毒を持った魔物……。うん、これは近寄らない方が良いな、と僕は判断した。




「何をぐずぐずしとる。わしらもあの部屋へ行くぞ」




 無茶なことをペケペーケ様は言い出した。見たところ結構な高レベルのフェイさん達ですらやられたのだ。僕とユキさんで到底敵う相手とは思えなかった。




「お主、怖いのか?」




 ふーん、と僕をジト目でペケペーケ様は見て来た。そりゃ、あの二人を見ていればそうなるだろう。




「良く考えてみろ。あの二人、かゆみを訴えておったが大したダメージは負っておらん。敵は毒こそ持ちすれ、力は無さそうじゃ。今のお主なら勝てる、と思わんのか?」




 確かに腫れている場所には傷一つ無かった。……しかしまた『無病息災』の力でかゆみの毒まで耐えられると言いたいのだろうか。




「ほら、わしらも行くぞ」




 そう言うと、ペケペーケ様はさっさと一人で奥の部屋へ向かってしまった。自分は戦わないからと言って、無責任な神様だった。




「行きましょう、ワイトさん」




 ペケペーケ様の行くところ、自分も行かねばなるまいとユキさんまでついて行ってしまった。そうなれば僕も行かざるを得なかった。




 狭い廊下を抜けると広いドーム状の部屋に出た。ここにあの強敵の魔物がいるのかと思うと緊張した。もっとも見回したが、それらしき影は見当たらなかった。




「ワイトさん、あそこに宝箱が!」




 ユキさんが指差した。確かに部屋の一番奥に、一つ未開封の宝箱がポツンと落ちていた。地下一階をクリアした多くの勇者や冒険者達が今まであの宝箱を見過ごして来た。それ程の敵がいる……。


そう思うと自ずと緊張が走る。僕は思わず唾を飲み込んだ。




 僕の右手は腰のブロンズソードにかかった。ユキさんも恐怖心を感じたのだろう。僕の左手を握って来た。




「じゃあ行こうか」




「はい!」




 僕らはゆっくりとあたりを窺いつつ、奥の宝箱を目指して少しずつ歩き出した。




「ええい、まどろっこしいのう」




 中々前へ進まない僕らにしびれを切らしたペケペーケ様は駆け足し出した。




「あ、ペケペーケ様。危ない!」




 僕の制止など聞いちゃいなかった。




 その時だった。




「ふーん。人間たら、また来たの」




 どこからともなく響いて来る女性の声。僕とユキさんは戸惑って顔を見合わせた。




「……ってなんで、二連続で男女カップルなのよ! 私に対する当てつけ!? しかも手なんか仲良く


握っちゃって。あーもうマジ腹立つ!」




 その女性の声が突然怒り出した。そんなこといきなり言われても僕としても困る。




「ワイトさん、上! 天井を見てください!」




 ユキさんの声に、僕は天井を見上げた。そこには女性……型の魔物が張り付いていた。




「おー。なんぞ張り付いておるのう。なんじゃ虫型の魔物か」




 呑気にペケペーケ様は眺めている。確かに声の主は虫型らしい。羽を持ち、鋭い針を右の腕から生やしているのが僕の目にも確認できた。




「よくもまあノコノコ、私の部屋までやって来てくれたわね。私はモスキートクイーンって言うの。以後お見知りおきを。……それから虫型なんて軽々しく呼ばないでくれる? そこのちっちゃいお子ちゃま!」




 モスキートクイーンはユラユラと天井から降りて来た。




「ムキーッ! このわしをお子ちゃま扱いしおって! このわしを誰だと心得ておる!」




 しかしどう見てもペケペーケ様、小さい子供にしか見えない。それでも本人は気にしているらしく、すっかり頭に血が上ってしまった。




「ユキにワイトっ。早う、この魔物退治しろ!」




 顔を真っ赤にして叫ぶペケペーケ様。それでもやはり戦闘は僕ら任せらしい。

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