第7話「勇者さんと強敵」
エントランスに戻って来た僕達。だがそこで異変に気付いた。ゴブリンが一体待ち構えていた。たまに自然発生する魔物も迷宮にはいる。こいつも大方そんなところだろう。
しかしこいつは厄介だった。ゴブリンは普通緑色の頭巾を被っている。でもこいつが被っているのは青い頭巾だった。ってことは、ちょっと強い奴なのだ。
「大丈夫です! 今の私なら退治してみせます!」
ユキさんは自信ありげに張り切って見せた。僕は彼女を信じて任せることにした。
ところが意外な展開となった。
ユキさんが剣を鞘から抜いた。最初のへっぴり腰ではなくなって、しっかりとした構えは剣の重さに負けていない。
「えーい!」
声だけは相変わらず優しいユキさんらしい頼りない感じだが、動きは悪くない……はずだった。ところが動き出すとまた例のブンブン振り回すスタイルに戻ってしまう。
それでも一太刀、二太刀と浴びせる。もっとも青ゴブリンも剣を持っており、それを受け流してしまう。
「ユキさん、僕も手伝おうか?」
しかし僕の申し出をユキさんは断った。
「ワイトさんにいつまでも頼っていられません。私でもできるところをお見せします」
ユキさんなりに自負心があるようだった。
再び斬りかかるユキさん。青ゴブリンはそれを横一線に払った。
「あっ!」
ユキさんの手が滑ったのか、青ゴブリンの力が思いのほか強かったのか。ユキさんの剣が手から弾き飛ばされた。剣がガラン、という音を立てて床へ落ちた。
「ワイトさん、どうしましょう!」
ユキさんの声に、どうしようかと僕も思った。剣の力が無ければ、今のユキさんが青ゴブリンに勝てる見込みは低いだろう。熟練の冒険者なら素手でも倒せるゴブリンでも、やはりまだユキさんには十分強敵なのだ。
「僕が槍で足止めするから、ユキさんはその間に剣を拾って!」
「わかりました!」
緑ゴブリンなら相手にしたことがある僕でも、青ゴブリンは初めてだった。それでもあの自称勇者にくっついて多少はレベルアップしているのだからなんとかなるだろう。
「行くぞ!」
僕は竹槍を構えると青ゴブリンへ駆けだした。間合いを詰めようとする青ゴブリンを竹槍で牽制し、何とかユキさんが剣を拾うタイミングを作ろうとする。
「ユキさん今だ!」
「は、はい!」
その間にユキさんは弾き飛ばされた剣を拾い、槍に気を取られている青ゴブリンへ一撃をお見舞いした。たちまちゴブリンは消滅し、青緑に光る魔石と化した。
無事、二人で力を合わせて青ゴブリンを退治できたのだ。
「やりましたね、ワイトさん!」
ユキさんはホッとしたような顔を浮かべると、その場へへたり込んでしまった。
「ユキさん、大丈夫?」
僕は駆け寄った。
「はい。でも最初はどうなるかと思って。……とても怖かったです」
剣を落としたことで急に自信が無くなって逃げ出したくなったそうだ。
「でもワイトさんが励ましてくれました。だから私……頑張れました!」
そう言うと彼女はまた僕の手を握って感謝してくれた。
僕としては当然のことをしたまでなのだが、こうして喜んでくれるユキさんを見ていると悪い気分はしなかった。あの自称勇者連中からは嫌な扱いしかされていなかった分、ユキさんと出会えて本当に良かったと思えた。
「あ、ワイトさん宝箱ですよ。あの青ゴブリンが落としたんですかね」
確かに新しい宝箱が落ちていた。早速開けてみることにした。
中には……ブロンズソードが一振り入っていた。一階にしてはまあまあな収穫と言える。
「売ればちょっとしたお金になるよ。ユキさん、後で売りに行こう」
しかしユキさんはそれに反対した。
「でも手に入れたアイテムは全部ワイトさんの物になる、という約束をしました。ですからこの剣はワイトさんの物ですよ」
確かにそうなのだが何だか僕としても気が引けた。二人で譲り合う形になってしまった。
「でもワイトさんの竹槍、ボロボロになっていますよ」
僕は竹槍を改めて見直した。ゴブリンとやり合ったせいで、あちらこちらに刀傷がついている。切っ先も欠けてしまっており、これ以上の使用には耐えられそうも無かった。
「うん……。じゃあ約束通りこのブロンズソードは僕が使わせてもらうよ」
冒険者が最初に使う定番のブロンズソード。僕が使うにはやや重さを感じるが、それでも剣を構えてみると自分が強くなったような気がして悪い気はしなかった。
意外な収穫もあって今日は充実した探索だった。僕ら二人はまた揃って家路へ着いた。
するとまた、あの女の子が待ち構えていた。
「どうじゃ、わしの力思い知ったか。お前の願い、しっかり叶えてやったぞ」
自慢げにそんなこと言われてもさっぱりわからない。僕がこの女の子にどんな願いをしたと言うのだろうか……いや、したのかもしれない。
「では、いざさらば――」
そう言い残して立ち去ろうとする女の子。僕は咄嗟に言い放った。
「あ、犬だ!」
「ぎゃあああああ」
女の子がつまずいて転んだ。裾の長い自分の着物を踏んづけたらしい。
僕はその場でもがいている女の子を捕まえてしまった。
「さーて、どうしようか」
「えーい、離さんか。罰当たり者め!」
だけど僕は聞くつもりは無かった。いつも変なことを言っては消えるこの子の正体を暴きたくなったのだ。
「ねえ、あなたどこの子?」
ユキさんが優しく尋ねるが、女の子は答えない。随分と生意気な子のようだった。
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