□虚弱の英雄・無能のハルト。
@Ze-oOo-Mu
第1話
――この世界は魔力に満ちている。
あらゆる生物も、踏みしめた大地にさえも。
俺には視えてしまう。
他の人には視えない魔力の流れ。
だからどうしたという話なのだが、俺には視えるのだ。
俺以外のあらゆるものが、魔力に満ちていると――。
俺は七英雄というものに選ばれてしまっていた。
剣聖、賢者、聖女などと同じ英雄の一人である。
神に選ばれ、魔王を倒すという使命を定められた七人。上記の者と同様に俺は特別な力を与えられ、素質たるものを目覚めさせられた。
そして、俺はゴブリンに負けた。
最弱の英雄が誕生した瞬間だった。
ゴブリンは最弱と呼ばれている魔物だが、敗北した理由はいくつかある。
まず一番の理由として、俺に与えられた力が弱すぎること。
魔力の可視化。それと、どこにでも存在している魔力の塊――精霊との意識共有である。
これで何をしろという。
二つ目。これが最重要の敗因となるのだが、俺の体は魔力を持たない。何億人に一人の特異体質らしく、身体強化も魔法も唱えられない。
剣を振ったところで威力はなく、傷を負わせるぐらいの威力で攻撃すれば俺の手が先に折れる。
以上のことから、ゴブリンに敗北した。
俺が負けるのは必然だったのだ。
つらつらと負けた理由を並べてみたものの、結局は俺自身が弱かったということに尽きる。
――魔力ゼロ。
誰もが持っている魔力を俺は持っていない。少ないとかそういうわけでもなく、まるっきりゼロ。医者が言うには病名不明の特異体質。
身体強化すら出来ないとなると、非力な肉体で剣をまともに打ち合うことさえ難しい。
そんなこんなで、既に幼少の頃から夢であった騎士を目指すのをやめ、剣士になることを捨てている。
諦めが早いだろうが、賢明な判断だと言えよう。
平民も貴族も関係なく魔力という鎧を着ているのに、俺は裸で歩いているようなものなのだ。
魔力を持たない俺にとって、この世界は理不尽そのものである。
生まれつき魔力を持っていなかった俺は腫れ物扱いをされながら生きていたが、それなりの名家である貴族の長男だったことが幸いして、それなりの暮らしを送っていた。
十代は貴族の義務でもある王立学園に通い、無事に史上最低記録を叩き出して卒業。
無能のハルトというアダ名を付けられる不名誉なこともあったが、実習科目を顔パスで見学していたことが影響しているのだろう。
いや、無理だって。魔物と戦うのなんて。
一番弱いと言われる生物代表格に上げられるゴブリンですら、貸し出されている剣で斬りかかってみたら返り討ちにされた。英雄の力を使っていたにも関わらずにだ。
最初から分かっていたが、そもそも俺には近接戦闘が向いていない。正面から敵対するのは自殺行為に等しく、学園では散々な目にあった。
そんなこともあって俺は学園でひたすら日陰にこもっていた。後半は不登校でロクに授業を受けていない。
目覚めた英雄の力に慣れるため、そちらばかり注力していた。
そのせいで家の名を傷つけてしまい、卒業と同時に父親にあたる現当主から勘当されてしまったのも自業自得である。
家を継いで悠々自適に暮らす人生計画が白紙になったのは痛いが、暫く会っていなかった父親には感謝をしている。
今まで暮らしていけたのは紛れもなく温情だったから。
――そんな俺は『無能のハルト』と呼ばれ、蔑まされている。
魔力を持たず、魔法を使えないことから無能力者と最初は呼ばれていたが、学園では成績が酷すぎる俺を同年代のクラスメート達は『無能』と嘲笑った。
そんな俺は、七英雄の一人。
無能な俺を神様が選んだらしい。
神様の人選ミスとしか思えない。英雄の力を与える相手を確実に間違えているし、与える力の内容も間違えている。
さすがに弱すぎると思う。索敵には便利な力だが、俺が求めてるのはそれじゃない。
そんな英雄の一人に選ばれた俺は喜ぶこともなく、非常に困って名乗りを上げなかった。
こんな安すぎる力では英雄と名乗っても、戦場へ連れ出されて死ぬ。
左手に浮かぶ英雄の紋章を俺は革の手袋で隠し、一般人を貫き通して今に至る。
英雄に選ばれたことを正直に話せば、父親から言い渡された勘当の件は無かったと思うが、大々的に公表されて戦場に放り出されるのがオチだ。
仮に、英雄の力で誰にも負けないほどの超人になっていたら堂々と名乗っていたかもしれない。富と栄誉をウハウハで手にしていた別の未来。
そんな人生甘くはなかったけど。
俺がこの力を手にして選んだ未来は冒険者になること。
家を追い出されたせいで宿暮らしになる。
日銭を稼ぐのに最適なのは冒険者だ。
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