第3話山田仁
「おっす、慶次」
学校に着くと俺の親友の山田仁(ひとし)が話しかけてくる。
仁は猿顔でなおかつ高校生なのに頭を丸刈りにしている。本人曰く、美容室代をケチるためだとか。
実際に頭丸刈りの時もあれば、頭がボサボサな時もある。
だが、こいつは本当に頭がいい。前のディベートの時も本当に論理が明晰だったし、かなりの読書家でカント全集を読破したとか。
しかも、バイトして稼いだ金でオンライン英会話を始めている本当に凄いやつなんだ。
「俺はそんなに凄い(すごい)やつじゃない」
そう言って彼はいつも太陽の笑みを見せて言ってくる。
そうは言っているが本当に凄いやつなのだ。だから学園のアイドルとも言われている神崎夕菜(かんざきゆうな)さんともお付き合いしているのも頷ける。
神崎さんは進学科の生徒で、時々、この高校では進学か就職課の合同のディベートをするが、たいてい実りが多い授業をしている就職科の生徒の圧勝が多く、圧倒的に就職課の生徒が尊敬される。
それが逆に進学科の方ももっと勉強に身を入れなければと思い、本腰で勉強する人が多く。全体的な高校の学力アップにつながっている。
それはともかく仁が親しげにこっちによって話しかけてきた。
「そういえば面白いアニメ見つけぞ」
「なんだ?」
こいつの面白い、というのは相当インテリ的なアニメだ。賭けてもいい。
「『幻荘へようこそ』ってやつなんだが、相当面白かった。最終話まで見たんだが、また、1話から見たいと思っている」
「それは凄いな。どんな内容のアニメなんだ?」
それに彼は俯いた(うつむいた)。
「うーん。それがなぁ、わからないんだよ」
「は?」
「いや、一応ラブコメなんだが、はっきりとな最終話で一体、制作側が何を言いたいのかわからないんだよ」
「それはダメなやつじゃないのか?」
「いや、このアニメのテーマは『夢』だと思う。将来の目標の夢、と眠っているときに見る夢を掛け合わせて混ぜていたような感覚だ。あれだ、あれに似ている。『失われときを求めて』に似ているな」
「それは凄いな。20世紀最大の文学と並び称されるほどの作品か」
「いや、俺が思うにこの作品の方が洗練(せんれん)されているな。このアニメの方がもっとシンプルだ。『失われし時を求めて』は現在からの過去への追想という形になっているが、これは過去と現在がごちゃごちゃになっている。夢、というテーマを扱う際にこっちの方が遥かに良い」
「そうか」
「また、二人男の友情を育んでいるの?」
そう声をかけてきたのはロングの髪を縛って横にかけている、ちょっと悪戯(いたずら)っぽい雰囲気をかけた美少女。是枝(これえだ)皐月(さつき)だ。
俺と仁と是枝はよくつるむ。まあ、俺と仁がつるむ率が高いんだが、そんな時に是枝が今回のようにちょっかいをかけてくる時が多いのだ。
「そうだよ。俺と慶次の友情は永遠に不滅だからな」
「ふーん。その永遠の友情が一線を超えないようにね。彼女悲しんじゃうぞ☆」
「失礼な」
キーンコーンカーンコーン
「お、予鈴が来たな。レンタル店でチェックしとけよ。旧作だから安いから」
「ああ」
担任の熊田先生が入ってきた。
「ほら、授業が始まるから席に着け」
そういう前に、もう俺たちはあらかじめ席についていた。
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