ある兄妹

夏目義之

第1話仲の良い兄妹

ある兄妹


                       夏目 義之



 お前たちの人生はこれからだ。


 つまり佐竹くんと二人で作り上げていくんだよ。


 中略


 そりゃ、結婚したって初めから幸せじゃないかもしれないさ。


 結婚していきなり幸せになれると言う考え方がむしろ間違っているんだよ。


 幸せは待っているものじゃなくてやっぱり自分たちから創り出すものなんだよ。


 結婚することが幸せなんじゃない。


 新しい夫婦が、新しい一つの人生を作り上げていくことに幸せがあるんだよ。


 中略


 それでこそ初めて本当の夫婦になれるんだよ。


     『晩春』 小津安二郎 松竹大船撮影所 1949年



 2016年ごろの話。



一章 中の良い兄妹



 ・・・・・・・・・・・

 白い闇の中にいる。そのまま甘い闇を俺は感じていた。


 ・・・・・・・ん

 ただ微睡(まどろみ)の海を泳いで行く。すべてが安穏(あんのん)としていく。


 ・・・・・・・・・ちゃん

 気持ちいい。


「お兄ちゃん!」

 そのとき衝撃が走った。




 バッチーン!


「いた!」


 俺は飛び跳ねる。なんだ何が起きたんだ。顔がひりひりするぞ?


 起き上がったら、妹の美亜が微笑んでいた。


 小柄(こがら)でショートヘアの茶髪をした、小動物のような天性の明るさを持った俺の妹は、親愛なる家族だ。その美亜が微笑む。


「おはようお兄ちゃん」

「ああ、おはよう、美亜。起こしてくれたんだな、ありがとう」


 素直に頭を下げる。それに美亜は、ほほほとした女王風の上機嫌な笑い方をした。


「そうでもありませんことよ」

「お前、似合わないな」


 美亜のこめかみに一筋の筋が浮かぶ。


「もっかい打つよ(うつよ)!」

「ん?なんだそれは!?その巨大の百科事典は、もしかしてそれで叩いて起こしたのか!?」


「そうだよ!減らず口なお兄ちゃんは懲りて(こりて)ないから叩いて矯正(きょうせい)させてやる!」

「やめろ!体罰反対!」


 そう言いつつも、ポコポコと美亜は俺の背中を百科事典で叩いてきた。どちらともなく二人笑い合う。


「今何時だ?」

「5時半」



「そうか、ふぁーあ。早く着替えしないとな」

「うん、して」


 美亜はもう制服に着替えている。

 俺も支度をした。


「ねえねえ」

「なんだ?」

 美亜の瑠璃(るり)色の瞳の輝きが俺をとらえる。


「一回、バトルフィールドして」

「うーん、わかった。なら、一回な」

「やったー!」


 今日は俺が朝食を作る番だ。それを考えるとギリだけど、俺は妹に甘かった。妹と言うより、人に優しく接するのが好きで、美亜は嬉しいと、嬉しい、と素直に表すタイプなので、俺と相性が良かった。


 俺たちはスマホを取り出す。俺は定番のパーティーで行く。美亜は悩んでいるみたいだ。


「早くしてくれ。俺が朝食を作るから早めに済ませ(すませ)たいんだ」

「わかった。これで行こう」


 そのまま、パーティーのオートバトルが始まる。


 このゲーム、バトルフィールドは、オートで行われる主に対人用のe-sportだ。4かける4マスの陣営に8名のユニットを置いて、それぞれのキャラのAIが動く仕組みになっている。


 それぞれのキャラクターのAIといったが、本当に、それぞれのAIがそれぞれ戦場を判断して動く仕組みになっている。


 もちろん、普通のゲームのようなエレメントやら種族もある。


 俺が使っているのは主にダークネス属性のキャラで、その中から分岐して、アンデット族だったり、デビル族だったり、ゴースト族と言う種族に派生する。


 美亜が使っているのは属性がバラバラ。美亜の興味で選んでいるため、そんなに強くない。


 

それぞれ、属性ごとにバフを盛れるため、大体同じ属性を使うのがこのゲームのスタンダートなプレイだ。


 それとこのゲーム、SP性とターン性をとっている。ターンの先手はどちらの統率力が上かどうかで自動的に決まる。


 SP性と言うのが難しいが。このゲームに通常攻撃はない。ターン毎に一定のSPが回復し、貯まったら攻撃、という形だ。


 いうまでもなく、雑魚の方が消費SPが少ないので早く攻撃でき、強キャラは使うSPが高いから、そんなに攻撃回数は少ないか、燃費が悪いのだ。


 とはいっても、俺はオーバーロードのキャラクターが気に入っており、相手に強力な全体攻撃をかけるオーバーロードのベルゼブブもう一体全体攻撃をかけつつ相手に即死攻撃をかけるサマエル、単体に燃費の良い攻撃をかけるロキの3点を使っている。


 このゲームはまず前衛のキャラが攻撃をくらいやすいので、俺はこの他にゴーストを置いている。


 ゴーストは脆い(もろい)が回避率は異常に高いので攻撃を避けやすい。後はスケープゴート族という、ダークネス属性が6体おいた置いたパーティーにだけおける種族で、自分が死ぬことでいろんなバフ、デバフを与えてくれる。


 俺は2体闇の精霊を使って、味方全体のSPが満タンにするようにしている。


 後、もう一体は趣味で選んだサキュバス。相手を魅了状態の全体以上をかけてくる。


 正直いってこのパーティー編成とでいったら、なしな組み合わせだ。


一応、サマエルには相手の状態異常をかけやすくするバフもあるが、バフもどれもチグハグで、サキュバスとサマエル外して、もっと強力なHP攻撃を与えるキャラ入れれば随分楽になると思うが。趣味でゲームしているから、そんなことはしない。


 対する美亜も、このゲームグラフィックで選んだタチなので、バフとか関係なく、自分の好きなキャラで固めたタチなので、そうとう弱い。

 

しかし、それでも自分なりの強いパーティーを考えているようなのでそこそこ強くなっている。


 しかも、俺の対策として状態異常を無効化、そして回復するエンジェルを選んでいるので俺対策として十分なぐらいだ。


 で、対戦開始。俺はオートバトルをするとこっくりこっくりしながらスマホを見ていた。


 サマエルの攻撃は全員にかかっていない。サキュバスは三人魅了している。


 しかも、闇の精霊の犠牲でこっちとしてはもう、6体8なのだから、不利だ。


 そして、サマエルの攻撃はSPがすっからかんになって、頼みはロキとベルゼブブだが、ゴーストが早くに死に、2体に集中砲火、どちらも死んだ。


 まあね、ゴーストは回避バフモリモリじゃないとあんまり強くないしね。ああ、負けた。

 買った美亜がドヤ顔で言ってくる。


「もう、お兄ちゃん弱いなあ」

「参りました」

 そうは言いつつも、二人とも世界ランキングはそんなに高くはない。下手の横好きというやつだ。


「じゃあ、俺は朝食の準備をするわ。美亜は?」

「私は、もうちょっとこれしておく」

「楽しんでね」


 美亜は満開の笑みで答えた。

「うん!」




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