左手にある欠片

左1 01



 胎動のスターター


 彼は別の世界からその世界にやって来た旅人だった。

 彼はその場所に来る前に悲劇に遭い、大切な人とその他大勢の命を天秤にかけなくてはいけなくて、その他大勢をとった者であった。


 結果、覆せない選択の重みを引きずりつづけ、その結果を後悔しながら日々を過ごしていた。


 けれど彼は現実的であった。異界の来訪という問題に直面した彼は、その解決へと行動し始める。

 その場所にやってきて、すぐに順応して。過ごし始めた。

 そこは危機的な状況にある場所で、ほどなくして世界が終わってしまうと言う場所だったからだ。


 多くの者が不安をかかえ、見えぬ明日の景色に心を曇らせている。

 そこは彼の故郷と似たような場所だった。


 そうして過ごして幾日か経った時だった。


 彼は一人の少女と出会う。

 小さな店に働く少女。


 名前も知らないその少女は、彼がかつて天秤にかけて選べなかった方……大切な少女とよく似ていた。


「お金を貯めるために、臨時の手伝いをしてるんだ」


 少女は、親しい者に送る為のプレゼントを買う為に働いていたようだった。


 それから彼は、よく少女の働く店に通うようになった。


 しかし、ある日唐突にそんな日々は終わりを告げる。


 店に入って来た強盗によって人質に取られた少女は、犯人との逃亡に付き合わされて、もみ合いの末、川に落ちて行方不明になった。


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