第16話 ミラータ村

 降りると体がバキバキになっていた。


 ……馬車の旅、予想以上に過酷だわ……。


「ミリア。よく体をほぐしておけ。筋肉痛になったりするからな」


 それは嫌。筋肉痛になったらなにもできなくなる。ほぐさないと。


「シスターは大丈夫か?」


「はい。魔法で回復してましたから」


 なぬ? そんなことができるの!? 反則ではない?


「さすが聖女候補に選ばれるだけはある。オレ、聖魔法は覚えられないから羨ましいよ」


 その分、身体能力や魔法はずば抜けてるけどね。


 えっちらおっちら体をほぐすと、体が温まってきてバキバキが完全になくなった。と言うか、湯浴みしたいわ……。


「それで、これからどうするの?」


「まずは水の確保だな」


 答えたのはリガさんだった。


「水、ですか? じゃあ、イルア、お願い」


 荷車に大きな樽があった。あれなら一晩は充分でしょうよ。


「いや、普通は井戸や川から汲んでくるんだがな」


 あ、そう言えばそうだった。うちではイルアが水を出してくれるから完全に意識の外にあったわ。


「まあ、オレがいるんだし、構わんだろう」


 わたしもそれでいいと思う。楽できるところは楽をして、手を抜いちゃダメなところはしっかりやる。それでいいと思うわ。


 イルアが荷車から樽を降ろしてくれ、蓋を開けて手から水を出した。


「……イルアさん、凄いですね……」


 溜まるのを見てたらラミニエラが感心したように呟いた。


「ん? なにがだ?」


「手から水を出す魔法なんて並みの魔法使いでもできませんよ」


 そうなんだ。魔法使いならできることなんだと思ってたわ。


「まあ、レベルアップの恩恵だな」


「レベルアップとは?」


「あ、いや、上達したって意味だよ。ミリア、村で食材を手に入れてきてくれ。ここは現金で買ってくれる者にはサービスしてくれるからさ」


 そうなの? お金なんて必要ないところに見えるんだけど?


「ここは小鬼猿や狼がよく出るからな、冒険者に依頼するのに金がいるんだよ。そのために金を出してくれる者には優しいのさ」


 小鬼猿や狼が出る日常とか、わたしには想像ができないわ。


「わかった。いってみるよ」


 なにがあるかわからないけど、イルアがあると言うならあるのでしょう。何度もきてるみたいだしね。


「マール。荷物持ちを頼む」


「ああ、わかった」


「わたしも手伝います!」


 ラミニエラも加わり、村の中へと入った。


「……臭いが凄いわね……」


 町の中とはまったく違う臭いが村の中に満ちている。これは、家畜の糞の臭いかしら?


 町でも山羊や鶏を飼っているところがあり、何度かいったことはある。あの臭いをより濃くした感じだわ。


 ミラータ村は結構大きく、家と家の間が離れており、家庭菜園的なことをやっているようで、いろいろ生っている。


「季節に合わせて植えているって感じかしらね?」


 どの畑にもプリムが植えてある。挽き肉を包んでロールキャベツ(イルア命名)にするのもいいかも。


 プリムは煮ても焼いても美味しいし、酢漬けにするとお酒のおともにもなる万能野菜。魔導箱に入れておけば腐らないわね。


「すみませ~ん」


 店がないと言うことは直接買いつけってことだろうから、たくさん植えてある家へとお邪魔した。 

 

「はい、誰だい?」


 家から恰幅のよいおばさんが出てきた。


「突然すみません。旅の者です。美味しそうなプリムを見て食べたくなったので売ってもらえませんか?」


 銅貨を見せて交渉する。先ほどイルアが言ったことを踏まえてね。


「女の旅人とは珍しいね」


「はい。今回が初めての旅なんです。食材の調達がわからないので、とりあえず美味しそうな野菜を作っている家に声をかけてみた次第です」


 物怖じせず、笑顔で受け答えすると、おばさんの警戒心がなくなり、プリムをたくさん売ってくれた。


「他にも売ってもらえるものがあったら売ってもらえるます? ともの者が大食漢で、一回で五人前を食べちゃうんですよ。あ、ご近所の方にお声をかけてもらってよろしいでしょうか? 他からも買いたいので」


 銀貨を一枚、おばさんに握らせた。


「い、いいのかい、こんなに!?」


「はい。手間をかけさせるんだからこのくらい受け取っていただけると助かります」


 お金は使うときは惜しみなく使うもの。そう市場で学んだわ。


「肉やロリムもいるかい?」


「はい。ロリムはたくさん欲しいです」


 山羊の乳を発酵させたものはイルアの好物の一つ。炙ってパンにかけて食べるのが好きなのよ。


「あ、村の外に持ってきてくださるよう伝えてもらえますか? 運べなさそうなので」


 プリム十個でもう手が塞がれている。持ってきてくださると助かります。


「隊商でもきてるのかい?」


「いえ、馬車一台ですが、魔導箱と言うたくさん入る魔法の箱があるので馬車二台分は買えると思います」


 収まらないときはイルアのインベントリを利用させてもらいましょう。樽に詰めて収納してもらえたら馬車三台までいけるはずだわ。


「そうかい。なら、外に持っていくよう伝えるよ」


「はい、お願いします」


 走り去るおばさんを見送り、プリムを抱えてイルアのところへ戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る