第163話 その2

 解放された千秋が自分の席に座り、ランチで話すであろう情報をまとめていると、


「チーフ、少し話を聞いてくれませんか」


顔をあげると、そこには一色がいた。


「どうしたの一色君、塚本さんと仕事は?」


「塚本さんは経理課です、先程話した経理の方に塚本さんのトリセツを渡してきましたから、しばらくは大丈夫です」


「そう、で、話って?」


「ここじゃ何ですから、廊下のロビーに行きましょう」


 一色に誘われて廊下に出ると、ロビーの長椅子に千秋は座り、横に設置してある自販機でコーヒーを一色が購入して、千秋に渡す。


「ありがと。で、話って」


「話しというのはですね、その、えっと、あの……」


歯切れの悪い一色の様子に千秋は察し、ふぅとため息をつき、コーヒーをひと口飲む。


「詰めが甘いわよ、一色君。ちゃんと話の内容まで決めてこなくっちゃ」


一色はばつが悪そうに頭をかく。その様子に千秋はクスッと笑う。


「ごめんね、気をつかわせちゃって。そんなに落ち込んでいるようにみえたかな」


千秋の横に少し間を空けて一色が座る。


「そうですね、なんとなくですけど、落ち込んでいるというか上の空という感じですかね」


「やっぱ、そうか。たしかにそんな感じね」


「何かあったんですか」


千秋は頭をかきながら、話す内容をまとめつつ口を開いた。


「昨日の夜、常務に言われたんだけど、私達のリストラは回避されたわ。企画3課は無くなるけど、他の部署に移って残ることになったの。だから私が目的だった会社を辞めないを果たしたんだけど、だからかな、その先が見えなくて……」


「今、さらっと言われましたが、企画3課が無くなるんですか」


「ああ、そういやまだ話してなかったっけ」


 それに気づいた千秋はまたも落ち込む。


(だめだ、全然しっかりしていない、自分がこんなにポンコツだとは思わなかった)


 本来ならリストラ回避を大喜びする情報なのに、なんでこんなタイミングで3課が無くなる事を言うんだろう。

 一色はどんなリアクションをしていいかわからず、はぁとだけ応える。


「アメリカ本社への研修も約束してもらったわ、だからもう味方でいる事もないわよ」


この言葉に一色はムッとする。


「なんですかチーフ、僕はもう用済みって事ですか」


「そうは言ってないわよ、ただ、無理につきあう必要は無いって」


「チーフは僕がイヤイヤやっていると思ってんですか」


「そうじゃなくて、アメリカに行ったら結局つきあえないじゃない」

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