第162話燃え尽きたかな

 水曜日、千秋はいつも通りの時間、8時半に会社の玄関に着いた。


「おはようございます、チーフ」


 後ろからかけられた声に振り向くと、そこには一色がいた。千秋は挨拶を返すと、昨日の様子を訊こうと1階ロビーの長椅子の席に並んで座る。


 他の社員が、エレベーターの前で列をなすのを眺めながら、千秋は一色からの話を聞いた。


「昼休みの後、塚本さんが居た課の経理課に2人で行きました。課長さんが蒼い顔で、話は聞いているから課員に仕事内容をきいてやってくれと言いましたので、塚本さんにどなたに訊いたら良いか尋ねて、その方に教えてもらいました。きっちりした方でしたよ。3時のお茶の時間に少しコミュニケーションをとって話したところ、スズキさんが横領で辞めたのは薄々知られてましたね。サトウ課長が辞めるのも知っていました。ですが、たまたまと思われてますね、繋がりはないと思われてます」


まあそうだろうなと千秋は思った。塚本さんのコミュニケーションの心配も、一色君がいれば何とかなるとホッとした。


「塚本さんは定時に帰ってもらいました。かわりに僕が残業をして、ノルマを果たしました。今日も朝からその予定です」


「そう、それじゃあお願いね。私は、え~っと、そうそう、森友の芝原さんとランチに行ってくるわ。あとは、え~っと……」


 千秋が何となくうわの空なのを一色は感じたが、塚本が出勤してきたのが視界に入ったので、上に行きましょうと千秋に声をかけた。


 エレベーターの列に並ぶと、一色は塚本に声をかける。相変わらず無言で会釈だけをする塚本に、一色は何かしらを話しかけると、塚本は少し考えて、こくんと頷いた。


 エレベーターに乗り込み、経理課の階で一色達は降り千秋と別れる。企画部の階に着くと千秋も降り、1課長に挨拶をした後、自分の席に向かおうとしたが呼び止められる。


 1課長と2課長とともに、同階にある会議室へ移ると、2人に問いただされた。


「昨日の夕方に護邸常務に喚ばれて、企画部が廃止され営業部に吸収されることを聞かされたが、何か知らないかね」


「いえ、なにも。私がきいているのは企画3課が無くなる事だけです」


「それは聞いている。それ以外は何か知らないかね」


それ以外は知らないと知らぬ存ぜぬと言い続け、納得してくれたらしくようやく解放された。


一色君達も、経理課でこんな感じなのかなと、千秋は思った。

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