第154話 その4

 警官に保護され警察署に着き事情聴取していると、アレキサンダーがやって来た。


アレキサンダーは冷や汗たらたらの警察署長に苦言を言うと、千秋を自宅に連れて帰る。




「その後これからどうするかアレクと話し合いましたが、いいアイデアは出ませんした」


「理想はミスターが社長を退いて、ハミルトン君が君を諦めるだろうけどな」


「後継者がいなければ勇退できないし、ミルは諦めてくれませんでした。ジェーンは私への怒りがおさまらないようです」


 今回の事を千秋はハミルトンに伝えると、それを知ったハミルトンは驚き母に抗議したので、とりあえず千秋に手出しするのはおさまった。


しかしアメリカにいる限り、いつまた同じ目にあうかわからない。問題の先送りなのは分かっているが、とりあえず千秋を日本へ帰らすという結論になった。そうすれば、ジェーンの怒りの矛先をずらすことができるだろうし、ハミルトンも諦めてくれるのではないかという打算もあった。


「それで私のところに、ミスターから連絡があったわけか」


「日本に帰る条件として、エクセリオンを辞めないという事を約束されました。正直、当時の私としては辞めてもよかったんですけどね」


「私の方もそうだ。ミスターは、君を会社に残すように強く要望した。しかし、私の目から見て、君自身はそうでもないようだったので困惑したんだ。だから何度も呼び出して、君の真意を探っていた」


「そういう事で呼び出されていたんですか」


「それから年末年始の休みを利用して、渡米しミスターに直接会って真意を聞いた。それで納得したのだが、やはり君自身の心構えというか信念を確かめたかった」


「それでテストですか」


「そうだ。私はミスターに恩義があるから、君の面倒をみるのはかまわないと思った。しかし、私自身のモチベーションだな、場合によってはジェーン女史を相手にしなくてはならない、果たして君はそれだけの価値があるだろうかと」


「合格ということは、価値があったようですね」


「今回の事はミスターに了解を得ている。転勤して半年で、しかも畑違いの部署で億単位のコンペ。それを成し遂げたらミスターの要望を受けると。それでも彼女なら大丈夫だと言われたよ」


「彼の期待にこたえられてよかったと思います」


 アレキサンダーからの信頼を不意打ちで聞いてしまったため千秋は顔を赤らめるが、照れ隠しにコーヒーをひと口飲んだ。


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