第153話 その3

幸運の2

 千秋はバックパッカー時代に、紛争地域を旅した事がある。そのとき知り合った元ゲリラに教えてもらった、バリケードの作り方と逃走の仕方を用意していたこと。

 そして、危険が迫ったとき身体に走る戦慄のシグナルを経験していたことである。


(何か来る)


 そう感じた千秋は、すぐに入り口にベッドでバリケードを作り、そして逃走の用意をした。


 暴漢達は入り口前に来ると、その巨体を活かして体当たりを繰り返して部屋に入ろうとする。だが、バリケードのため入れない。


 その間に千秋は警察に連絡を入れる。


 その時、地元の警察署長は頭を抱えていた。

 少し前にアレキサンダーとジェーンの両方から連絡があったのである。

 地元名士の父と娘から真反対の要望が届いていたからだ。


「チアキという人物から連絡があったらすぐ駆けつけてくれ」

「チアキという女から連絡があっても無視するように」


 立場上どちらにもいい顔をしたいが、どうしていいか判らず頭を抱えていた。そのため結果的にジェーンの要望通りになってしまった。


 ついに扉がぶち抜かれてしまい、暴漢達は部屋に入ってきた。バリケードを壊しながら奥に入ると、窓が開いていていた。


「いないぞ、窓から逃げたか」


「ここは3階だぞ、飛び降りられるものか」


「どこかに隠れているかもしれないぞ、探せ」


 室内を物色するが見つからない。窓から顔を出し

下を見るが降りた様子も無い。


「くそっ、何処へいきやがった」


幸運の3

 千秋には武道の心得があった。祖母が合気道の有段者で3歳の頃から手ほどきをされていたのだ。

 さらに、交遊関係が多く顔が広い祖母により、柔術の達人にも師事していたので、どちらも有段者の腕前である。




「柔道でなく、柔術なのか」


「祖父が武士の血筋で、そちらの縁で」




 2人の師匠から口酸っぱく言われていたのが、無駄に戦わずとにかく逃げろ、である。


 バリケードを作り窓から逃げたふりをして、部屋に隠れている。ふりをして、じつは窓から逃げていた。

 ベッドのシーツを、窓際のカーテンレールのネジ止めを緩めてから軽く結ぶと、シーツの端を持って飛び降りる。シーツが伸びきって一度勢いが死ぬが、レールが折れ曲がりふたたび落ちる。

こうやって地上まで着くと、シーツとレールをアパートメントの陰に隠して身を潜めていたのだ。


幸運の1

 警察署長が迷っていたのは、連絡が来てからの対応だったので、千秋からのSOSは警察には届いていた。そしてそれを受けたのは千秋をスピード違反で捕まえた警官だったのだ。

 彼はすぐさま自分と仲間を千秋のところへ向かわせた。


その結果、パトカーのサイレンを聞いた暴漢達は逃げだし千秋は無事にすんだのだった。

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