第139話 その4
「エクセリオンの佐野です、昨日はありがとうございました」
「ああ、佐野さん。昨日はどうも」
「一色から話は聞きましたが、今夜は先約がありまして」
「そうですか……」
限りなく残念そうなトーンで返事をする芝原。
「その代りといってはなんですが、明日のランチをご一緒するというのは如何でしょうか」
少し間が空いて芝原はこたえる。
「……僕、警戒されてますか」
「いえいえ、明日の夜でも大丈夫ですが、取引の話をするのでしたら、早い方が良いと思っただけです」
「そうですね、わかりました」
「では明日の午前中に連絡しますので、そちらの会社の近くでどこか良いところで」
「了解です、連絡お待ちしています」
受話器を置き、ふうとひと息つき、時間を確認する。ちょうど昼休みの時間だった。
千秋は1課長のところに向かうと、護邸からの指図を報告する。1課長はそれを承諾した。
「……というのが、さっきの常務の話なの」
昼休み、会社近くのファミレスで3人は食事をしながら打ち合わせをしていた。
「じゃあ、僕らの身の行き所はまだ分かっていないんですね」
「不安にさせてごめんなさい、でも正直に話した方がいいと思って」
テーブルを挟んで千秋と一色達が、4人掛けのボックス席に座っている。千秋は2人に頭を下げた。
一色と塚本は、どう返事していいか分からずに、無言のままでいる。
しばらくして塚本が一色の袖を引っ張った、塚本の表情から読み取った一色は、頭を下げたままの千秋に声をかける。
「まだ決まっていないだけです、チーフがそんなに責任を感じる事はないですよ。そういうのは決まってからにしましょう」
一色の言葉に千秋は顔をあげると、2人とも少しひきつっていたが、笑顔でいてくれた。
自分たちの状況を知って不安なのに、我慢してくれている。それを見て千秋は何としても2人を守ろうと心に決めた。
「さしあたっては目先の仕事をこなすしかないですね。ポカをしないように気をつけます」
「ありがとう、私は仕入先に行って再確認したあと、例のおもてなしってのをやってくるわ」
食事が終わり、会社に戻るとそれぞれの仕事をしに行く。一色達は経理部へ、千秋は仕入れ先へと。
「よ、プレゼン成功おめでとう」
「いい報告ができて良かったわ、やきもきさせてごめんね」
熱田区にある、とあるオフィスで千秋は旧友と話していた。
「東南アジア辺りだったっけ、出会ったのは」
「そうよね、お互いバックパッカーで日本人同士だから、しばらく一緒に行動したよね」
「いろんな奴等に会ったよなぁ」
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