第136話 夜のお誘い

 ツマミもあらかた片付いたので御開きとなり、千秋とハジメは帰ることにした。


「最強コンビなら安心ね、おやすみぃ」


 蛍は玄関まで見送ると、鍵をかけて中から手を振った。千秋達も手を振ると、深夜の壱ノ宮の闇夜に消えていく。

 見えなくなるまで見送ると、蛍はシャッターを下ろし戸締まりの確認をはじめる。


「お姫様が騎士とともに帰っていく、か」


 蛍は施設内を確認しながら独り言を続ける。


「あたしにハジメ、それから部下の一色君と塚本さん、そして舎弟のノブとかいうの」


 全部戸締まりしてあるのを確認して居室に戻り、シャワーを浴びる。


「もう、守られるお姫様じゃないわね、人を率いる立場、女王様かな」


 シャワーを止めて蛍はくすりと笑う。身体を拭き寝間着に着替え、布団を敷き眠りについた。


 その頃、歩いて帰る2人は、それぞれの自宅に着いたところで、千秋もハジメも明日のために床に入り眠りにつくのだった。




 翌日の火曜日、千秋はいつもどおり出勤したが、足取りは少し重かった。

 ここ一週間は変則的であったが、始業2~30分前に席に着くのが千秋のルーチンである。しかしなかなか足が進まず、始業5分前に会社の入口に着く。


「チーフ、おはようございます」


振り返ると、一色と塚本がいた。


「おはよう、2人とも」


元気無いですね、と一色は言葉を続けそうになったが、言わなかった。原因は分かっている、自分たちもおなじなのだからと。

 3人は無言のまま、中に入りエレベーターに乗り込んで、企画部のフロアで降り、企画部におそるおそる入り、3課のシマをみた。


課長の机の上がやけに片付いていた。


「3課の佐野くん、来たまえ。うしろの2人もだ」


 声の方を見ると、企画1課の課長が手まねきしていた。千秋達は言われた通り側によると、隣の2課長もやってくる。


「何があったんだ」


開口一番、訊ねられた。


「昨日遅くに護邸常務から連絡があり、新年度まで君達を預かってほしいと言われた。そして今朝来てみれば、サトウ課長の机が片付けられている。一体何があったんだ」


2課長も知らなかったらしく、驚いている。


「私もよく知りません、今出社したばかりなので」


「そんな筈は無いだろう、ここ一週間の君達は色々と動いていた。なにかあった筈だ」


しばらく千秋は黙っていたが、やがて口を開くと、やはり知りませんと言い、護邸常務から何か伝えられるでしょうと続けた。


それを聞き、両課長はとりあえず引き下がった。

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