第135話 その5

 喜んでいるハジメをよそに、千秋は蛍に寄り話しかける。


「ハジメの趣味の悪さ変わってないね」


 体育会系のハジメは、あまりファッションに興味がない。なので学生時代、初めてのデートのコーディネートに2人がかりで協力したのを思い出した。


「まあまあ、本人が喜んでいるんだからいいんじゃない」


「でも心配」


「大丈夫よ、意外とそんなハジメが一番最初に結婚するかもね」


「まっさかぁ」


「なに2人でこそこそ話してんのよ。そういう訳で来月から名古屋に住むからね。千秋も会社は名古屋なんでしょ、今後は名古屋で集まろうね。千秋はいい店探しといてね」


「はいはい。ケイは大丈夫だった。なんか迷惑かけなかった」


もとの席に戻りながら蛍に話をふると、


「特にないわ、シフトを変わっただけだし、エステコースのお試しと宣伝でチャラかな」


「何それ、エステコースって」


蛍は会員用コースとして、エステと美容院とコーディネートのセットコースを考えているとの話をすると、ハジメが食いついた。


「いいなぁ、あたしもやってもらいたいぃ」


「そのうちね。それではメインイベント、千秋はどうだったの」


千秋は今日の朝からあった事を話した。


「はぁ、最初は部下がコンペに行って、千秋は会議という名の吊し上げをされる筈だったのが、コンペの時間がずれて行けると安心したところ、会議が思ったより長引いたと」


「横領の濡れ衣を着せられかけたけど、切り抜けて、お人好しにもそいつらを助けた為にコンペに遅れて、さらに渋滞につかまって間に合わないと思ったけど、例の舎弟に助けてもらい、たまたま聞けたニュースのおかげで負け確実のプレゼンを逆転して勝ち取ったと」


千秋の話を一通り聞いたあと、蛍とハジメは顔を見合わせて笑いだした。


「あはははは、何なのよあんた、まるっきりドラマみたいじゃない、今日一日だけでクライマックス何回やってんのよ」


「ほんとほんと、あたしは土曜の事がクライマックスだと思ってたのに、まだあるんだもん、どういう星の下に生まれてんのよ」


「知らないわよ、そっちは笑い事だけど、こっちは大変だったんだから」


笑いがとまらない2人に、千秋は膨れっ面をする。


「はぁ、可笑しかった。なんにしろ上手くいって良かったね。これでクビは避けられたんでしょ」


「たぶんね。どうなるか分かんないけど、少なくとも部下との約束は必ず守るわ、たとえクビになっても」


「それじゃ本末転倒でしょうが」

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