第134話 その4
深夜番組を見ながら時間を潰していると、23時半に蛍がやって来た。
「お待たせ」
「早かったわね、ちゃんと片付けたの」
「年度末のせいかな、会員さん少なかったから、失礼のないように少しずつ片付けて、早目に終われたわ」
蛍は仕事着のジャージを脱ぐと、部屋着に着替えて席についた。
「ではあらためて、コンペ成功おめでとう、かんぱーい」
蛍の音頭で唱和し、杯を合わせ、千秋は白ワイン、ハジメはノンアルのビール、蛍は缶チューハイの桃味をそれぞれ飲んだ。
「あらためてありがとうね、2人がいなかったら駄目だったと思う。本当にありがとう」
「なーに言っているのよ、気にしない気にしない」
「こっちとしては逃してたヤツを逮捕出来たからね、むしろ有り難いくらいよ」
学生の時ならともかく、もう社会人になった以上それぞれの生活があるのに、自分の頼みをきいてくれた事に千秋は心底感謝した。
祖母の料理をツマミに銘々に飲み食いしていたが、少し酔いがまわってきたようで、口が滑らかになってくる。
「あ、それでハジメは何があったの。今日は来れなさそうって言ったじゃない」
蛍の言葉にハジメは杯を置き、崩した足を正すと、
「今度の事で異動となり、新年度より
「おお、栄転じゃん」
「栄転というより、厄介払いなのよね。今回の事であたしの事がニュースになっているのよ」
「ああ、見た見た。[あのハジメちゃんの今]とか[ハジメちゃんが婦警になってた]とかなってたね」
「だから壱ノ宮署に人だかりが出来ているのよ、あたし見たさにね。おかげで仕事が滞っちゃってね、お前がいるとかえって邪魔だ、って言われて定時で帰されたの」
「ごめん、あたしのせいだね」
「気にしないで。実は以前から本部には呼ばれていたのよ」
「なんで」
「全国柔道大会要員としてね、でもあたしは現場でいたかったし、それに……」
「おばあちゃんね」
「……うん」
ハジメの両親は彼女が幼いときに他界している。その彼女を育てたのが祖父母なのである。
今は宿舎に住んでいるが、時間をつくっては祖父母のところに顔を出す、おじいちゃん子おばあちゃん子なのであった。
「でも、名古屋なら近いし、たぶん内勤になると思うから、今までどおり顔を出せると思うわ」
「うん、でもやっぱり責任感じるわ」
落ち込む千秋にハジメが、
「じゃあさ、これ貰っていいかな」
そう言って紙袋からマフラーを取り出す。
「そ、それって」
サトウが目印の為に千秋に渡した、あのマフラーだ。
「カッコいいじゃん、これ。ね、貰っていい」
白黒抹茶小豆珈琲柚子桜の7色グラデーションに銀のスパンコールをあしらえたデザインにハジメは嬉しそうに聞く。それでいいならと千秋は進呈した。
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