第102話 その5

「佐野主任、君が言いたいのは何だね」


千秋と護邸の会話に苛ついた竹ノ原専務が聞きただす。


「横領犯にこれからも給与を払い続けるのか? というのと、そのカネは共犯であるサトウ課長に流れるという事です」


竹ノ原専務が、うっ、という顔になる。


「だからサトウ課長は自分だけ悪者になろうとしたのか」


「ち、違います、デタラメです、そんなつもりはありません!」


サトウ課長は顔を真っ赤にして必死に言い訳をするが、2年におよぶ横領とスズキとの関係を隠したのが、それを否定させた。


葉栗副社長派は苦虫を潰す。


 スズキが横領の共犯では、護邸常務だけに責任をとらすわけにはいかない、こちらにもそれ相応のペナルティが必要となる。なんとか挽回できないかと、あらためてスズキに直接問いただしてみる。

彼女が脅されたと言えば、サトウ課長の言葉に真実味が戻るからだ。


しかし、結果は思い通りにならなかった。


「お、脅されてません、自分の意志でやりました……」


「ス、スズキくん、なにを……」


「無理です課長、これからずっと疑われていくなんて、あたし耐えられないっ!!」


うわあぁぁぁと泣き崩れるスズキに、課長も葉栗副社長派も、これ以上は無理だと判断、観念したようだった。


「議長」


ずっと黙っていた丹羽副社長が発言を求めた。

議長から発言許可を得ると、


「横領の問題は会社の問題ではありますが、こうまで収拾がつかないと一旦差し戻してはどうでしょう。正直、名古屋本社の問題なので、本社で裁決をされてもかまいませんから」


丹羽副社長の言葉に、万城目と日狩の両専務は同意する。

中島社長が他の重役に問いかける。早田専務他社長派は丹羽副社長の意見に同意するが、葉栗副社長派の4人は無言のままである。


8対4


あとひとりで決まる、無反応の東常務に視線が集まるが、あっさりと差し戻しに同意した。


「……よくばり過ぎたか」


葉栗副社長が誰にも聞こえない小声でぽつりと呟いた。


会議は終結し、泣き崩れるスズキとサトウと千秋を残して、重役達は退室する。


「佐野、キサマよくも……」


千秋を睨み付けるサトウ課長、もう2人には遠慮は無い。千秋も言葉を選ばず言い返す。


「自業自得でしょ、私に罪をなすりつけなければ、こんなことにならなかったわ。なぜ私に横領の罪をなすりつけたの」

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