第101話 その4
「報告漏れ? なんだね」
「護邸常務、今はそんな話をしているんじゃない。君はどう責任をとるのかという話をしているんだ」
「だいたい、報告漏れするような内容なら大したこと無いだろう。聞くに値しない」
「あります、弊社に利をもたらす話です」
その言葉に場はしんとなる。大鳥常務が口を開きかけたとき、護邸常務が有無を言わさない口調で千秋に報告するように言った。
「この報告は言い忘れたのではなく、報告に値しないと思い、伝えませんでした。しかし課長の発言によりやはり伝えるべきだと判断しました」
「だからそれはなんだね」
「サトウ課長とスズキさんは男と女の関係だということです」
会議室は一瞬、しんとしたが、すぐに笑いにつつまれた。
「君ぃ、いくらなんでもそれは無いだろう。こう言ってはなんだが、2人を見てそれは考えられんよ」
たしかにそうだ。暗い雰囲気ではあるが、スズキさんは20代半ばの美人の部類に入る女性。対してサトウ課長はアブラが抜けてガンモドキのような風貌の50代前半のぱっとしないオジサンである。
2人が並んで歩いても父娘にしか思われないだろうし、会社中の社員にアンケートとっても、ありえないという答えが殆どだろう。
千秋は控室に置いてある自分のスマホを持ってきて、中にある証拠画像を皆に見せてまわった。その画像は2人が仲睦まじく写っているのと、ホテルから肩寄せあって出てくるモノであった。
13人の重役達は画像を見ると、皆押し黙ってしまった。
千秋は最後に2人にも画像を見せた。
「佐野っ、キサマどうしてこの画像を!」
その反応で画像は証拠としての真実味を確実にした。サトウ課長の言葉を無視して千秋は重役らに言葉を伝える。
「おふたりが男女の関係であることは、これでお解りだと思います。つまりスズキさんがサトウ課長に脅されて横領に加担したというのは偽りだということです」
「違うっ、違うっ」
サトウ課長が否定するが、一度嘘をついた者は信用されにくい。千秋は話を続ける。
「社の規定により、サトウ課長は退職となるでしょう。しかし、加担したとはいえ脅されていたというスズキさんはどうでしょうか?」
千秋は護邸常務に問いかける。
「もちろん、横領の罪はあるから何らかのペナルティはあるだろう。だがその背景から情状酌量の余地はあるだろうな」
「たとえば」
「あくまでも例えだが、部署を移動して減給処分が妥当なところかな」
「つまり、給与、賞与、退職金をもらえると」
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