第93話 その4
「では、あらためて訊くが、横領および遣い込みをしてはいないと」
「もちろんです」
「しかしだね」
大鳥常務が机の上にある資料を取り、バサバサと振りながら言葉を続ける。
「こうして君名義の領収書があるのだよ、それも半年以上の分だ。それでも覚えがないと言うのかね」
頭悪いのかと千秋は呆れた。
先ほど私は半年前に転勤したと話したのに、半年以上の遣い込みなんて出来るわけないだろう。
少しくらいの事なら、無理矢理進めるとは言っていたが、こういう事か。
今すぐ反論してもいいが、もう少し様子を見ることにした。
「どうした、ぐうの音も出ないかね。しかしまあ色々と行ったようだな。キャバクラなんて行ったのか、女の身で。ホストクラブには行ってないようだが、そっちの趣味なのか」
ヘイセイになってずいぶんになるのに、男尊女卑とまでは言わないが、男女差別な考えなのがまだいるんだな。それともこれは地位の高い者が低い者に対する優越感を得る為の行為なんだろうか。いつかハイキックをおみまいしてやろうと千秋は大鳥常務を敵認定した。
「大鳥常務、言葉が過ぎるんじゃないかね。彼女はしていないと言っているんだ、言い分を訊いてみたらどうだね」
常務席の一番向こう端にいる郷常務が嗜めた。
「言い分も何も、これだけ証拠が揃っているんだ。聞く必要はない」
「それでは呼び出した意味がないだろう、本人が居るのに欠席裁判をしているつもりかね」
「そんなつもりはない、ただ速やかに会議を進めたいだけだ」
そこに早田専務が言葉を挟む。
「大鳥常務、会議を進めたいのは皆同じだ。そして郷常務が言うように彼女の言い分も聴くべきだ。まずは話させてはどうかね」
「しかし」
大鳥常務は諸星専務の顔を見る。諸星専務は黙って頷く。それを見て大鳥常務は黙ることにした。
ふうん、どうやら早田専務と郷常務、諸星専務と大鳥常務のラインがあり、対峙しているみたいね。となると諸星専務も敵の可能性ありか、質問に気をつけよう。
大鳥常務の代わりに郷常務が、千秋に質問をする。
「佐野主任、君は身に覚えが無いというが、大鳥常務の言うように、こうして証拠もある。それはどう説明するのだね」
見た目どおり、体育会系で短気な感じの大鳥常務と違って、日本人離れした甘いマスクで心地よい声質による物腰柔らかい物言いの郷常務に、千秋は好感を持った。
ふと見ると護邸常務が小さく頷いている。どうやら郷常務とは仲間らしい。
何となく13人のお偉いさん達の人間関係が見えてきた。
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