第91話 その2

 対照的に千秋は落ち着いていた。アメリカ本社の社長秘書をやっていた千秋は、世界的な大物に何度も会っている。それに比べれば彼等は残念ながら緊張に値する程ではなかった。


 とはいえ今現在は、勤めている会社組織の実権を握っている人々なのだ、失礼をしないようにしないと思い直し気を引き締めた。


 千秋は一色からのレクチャーと、会社案内のパンフレットから13人の顔と名前を照合する。


 正面の真ん中にいる、何処かの古寺の和尚さんみたいなのが、エクセリオン日本の社長である、中島社長。

 その向かって左側にいるのが、大阪支社長であり副社長の丹羽副社長。見た目はお笑いモンスターと称されるあの芸人に似ている。

 そして反対側の人物が東京支社長でありもう一人の副社長、葉栗副社長。こちらの見た目もお笑い芸人で見たことがある、コンビでどちらも眼鏡をかけている背の高い方に似ているな。なぜか睨まれている気がする。


千秋は、向かって右側の机に並んでいる5人に目を向ける。


護邸常務がいるから、こちらは常務の席なんだろう。こっちはまだ顔と名前が一致しないな。たしか郷、北斗、東、大鳥だっけ、まあ会議が進めば分かってくるだろう。


そう思い、今度は向かって左側の5人に目を向ける。


こっちの席は専務の席か、5人とも知らないな。名前は、竹ノ原、万城目、早田、諸星、日狩だったな。まあこっちもそのうち分かるだろう。


コの字席 から離れた所にいるのが、今日の会議の進行役である総務部長である。


千秋は大体を把握すると、あらためてこの会議での目的を確認する。


 目標は横領の濡れ衣を晴らすこと、勝利条件は悪印象を与えずに課長の仕業と伝えること、よし。


 議長である中島社長から促され、進行役である総務部長からの質問が千秋にくる。


「企画3課主任、佐野千秋さん。あなたは昨年9月よりアメリカ本社から日本支社へ異動となりましたね」


「はい」


「アメリカ本社での仕事内容はなんでしたか」


「秘書をしていました」


「どなたの」


「社長のアレキサンダー氏です」


会議室が少しどよめいた。

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