第77話 その2
そんな事になっているとは知らずに、千秋は帰宅して服を脱ぎ散らかすと、ベッドに潜り込んだ。
仲の良い友達の家もいいが、やはり自宅がいちばん落ち着くと思いながら、布団の中でもぞもぞとする。
目が覚めたのは、夕方というよりは夜に近い時間だった。
短い時間だったが深く眠れたので、かなり疲れがとれたと感じた。スマホをとり、時間を確認しようとしたが、その前に着信があることに気づく。ノブと一色からだった。
先に着信があったのがノブだったので、ノブにまず連絡をいれる。
「もしもし、ノブ? 今電話しててもいい?」
「あ、姐さん、うまくいったみたいですね。ネットニュースに流れているっすよ」
そうなんだ、あとでチェックしよう。
「ノブのお陰よ、ありがとう。そうだ、お礼を兼ねて落ち着いたらノブのお店に行くわ。私、白ワイン好きだから用意しといてね」
「姐さん、嬉しいんすけど今店をたたんでいる最中なんすよ」
「え、な、なんで」
「もともと3月いっぱいで閉めるつもりだったんす。だからキジマやリンチョウのスマホに盗聴アプリ入れてたんす」
「どういう意味」
「連中のアプリを削除出来ないんすよ。だからとばしのスマホで盗聴してたんす。ほぼここでやってたんで発信をたどられて、そのうち警察が来るんで、その前に消えようと思って」
「ええ!」
「あ、姐さんのスマホに中継したのもそのスマホなんで、もう処分しました。なので姐さんは安心してくださいっす」
屈託のない言い方で千秋は混乱した。自分から舎弟にしてくれと言いながら、今度は姿を消そうとしているのだ。
「ノブ、もう私に会う気無いの」
「そんな事無いっすよ、ただちょっと名古屋を離れるだけっす」
「どこに行くの、何をするつもりなの」
「なんも決めて無いっす、テキトーにやるっす」
このコなりに私に気を使っているんだな、と千秋は理解した。ならば素直に送り出してやろうと決めた。
「ねえノブ、何も決めていないんなら、あんた探偵にならない」
「タンテーっすか、ルパンとかニジュウメンソウとか」
「はんたいよ、それは泥棒の方でしょ。ホームズとか明智小五郎とかでしょ。あんたの情報収集力と行動力は探偵に向いているわ、それにそうなれば私はあんたに頼りやすくなるの。どう、ならない?」
「考えたこと無いっすねえ」
「そう? 無理は言わないけど、なったら教えに来てね。ありがとうね」
千秋は通話を切った。
これでいい、会えないとなると何をどうするか分からない。だが、探偵になったら連絡してねと聞いた以上、ノブは探偵にならないと私に会えないと受けとるだろう。となると探偵になる道を選ぶはず、探偵になれば[社会的に通用する肩書き]が手に入る。ノブに社会に対する根が張り、危うさが減る。
「舎弟の面倒をみるのが姐御の役目だものね」
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