第67話 いい気になるな

「て、てめえ、なんでここにいるんだ」


 キジマは混乱した。今さっき仲間達ともめていたというか仲間を叩きのめしていた筈なのに、何でここに? と。


「うちは忍者の家系でね、分身できるのよ」


「ふざけんな、できるわけねぇだろ」


いきり立つキジマを、ふふんと小馬鹿にするように鼻の先で嗤う。


「キジマタダシ、24才、東京都◯◯区に住んでいたけど、今は名古屋暮らし、名古屋に来た理由は……」


キジマはドキッとする。


「……卒業した大学が、学生向け金融ローンサークルで殺人事件になるまでの事件が起きたため」


「なんの話だ、そんなの去年の話で、今の学生の話だろう。俺には関係ない」


「この事件にはね。ただ、大学名と事件を聞いた人は必ず連想する、思い出す事はあるわよね」


キジマの顔が強張った。


「5年前に同じ大学で起きた、集団レイプサークル」


千秋の声のトーンが下がる。


「何人もの女子大生をコンパに誘い、酔わせて朦朧とさせ次々とレイプ。その上その行為を記録して脅しのネタとし、風俗に働かせてお金を搾取させていた」


「それがどうした、俺には関係ない。主犯格の奴等は捕まって刑務所むしょにいる。俺はサークルのメンバーじゃないしな」


「サークルのメンバーじゃなくても参加はしてたでしょう。主犯格のひとりの後輩ということで、サークル活動を手伝っていたそうじゃない」


「な、……」


なんで知っているんだ、と言いたかったらしいが言葉に詰まったらしい。


「あなたが捕まらなかったのは、サークルの名簿に名前が無かったのと、まだ未成年であったこと、そして父親のおかげね。群春物産本社のキジマ常務のね」


キジマは黙って、ポケットに手を入れる。目つきも怪しくなってくる。千秋はかまわず話続ける。


「あなたとサークルの繋がりを知る4人にカネと就職の世話をした。それがあなた達の繋がりね。そして知っている人は知っている。だから大学の不祥事で思い出されては困るから、ほとぼりが冷めるまで名古屋に飛ばされたというわけね」


「……てめえ、どこまで知っているんだ」


「たぶん全部」


2人の間の空気に緊張が漂ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る