第56話 その2

「はい」


蛍は女子更衣室のロッカーキーを渡す。


「サンキュ」


目で合図して互いに微笑む。千秋が受付から離れて直ぐに、経理の彼女が受付に手続きにやって来た。


千秋は更衣室で着替えてトレーニングルームに入ると、メニューをこなしはじめる。


ストレッチ、ラン、筋トレ、スイム、ストレッチ


メニューをこなした後、更衣室に戻りタオル姿となり、ジャグジーに入り汗を流した。


「さてと」


このあと、カブライジムの裏メニューが待っている。

 正式なメニューには表示されていないが、提携を結んでいるエステから、出張エステを頼めるようになっている。


時刻は午後1時になっていた。軽くサンドイッチとプロテインですまし、エステメニューにすすむ。



2時間後、磨きあげた身体を今度はドレスアップする。

髪を整え、化粧をし、パーティー用のロングドレスを身にまとう。




「お待たせ、どう?」


ジムのロビーに、似つかわしくないほど豪華で優雅な女性が現れ、そこに居た人達はざわめいた。


ストレートロングに端の方だけ軽く内側にウェーブのかかった黒髪

少し長めのまつ毛

下品にならないくらいの紅いルージュ

決め細やかな肌

シルバーのイヤリング


顔だけでじゅうぶん注目を集めるのだが、場所が場所だけに皆が注目したのは、そのスタイルであった。


モデルの様な姿勢に清楚なシルエットのバスト、くびれたウエストに形の良いヒップ。

そのボディをさらに美しく魅せるすみれ色のロングドレス。

スリットが腰の近くまで入っていて、そこから覗く足、いや脚の美しさに男女どちらもため息が出た。

もちろん、ルージュの色に合わせて、マニキュア、ペティキュアもしている。


「上々じゃん」


蛍が全身をチェックしたあと、ロビーに居る人達に向かって紹介する。


「会員のみなさーん、こちらは当ジムの会員さんですが、本日は提携を結んでいるエステ屋さんのメニューを受けてもらいました。如何でしょうかー」


ロビー中の人から拍手と歓声が起きた。


「ちょ、ちょっとケイ」


「いいじゃん、いい宣伝材料なんだから、ちょっとくらいいいでしょ」


「せめてモデルって言ってよ」



 会員からツーショットを頼まれ、顔を隠す、ネットにあげないことを条件にオーケーを出すと、長蛇の列が出来てしまった。


おかげでパーティーに遅れかけたが、無事、名古屋の会場に着くことができた千秋であった。

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